人体の秘密

おじさん(物書きの)

痛気持ちいい

 朝リビングに行くと両親が首を切断され死んでいた。驚いたことに僕は叫び声すら上げなかった。冷たいやつだと非難されると予想するが、実際、こんな場面に出会ったらこんなもんだと思う。

「……うーむ、全く動けん」

「父さん?」

「お、一樹か。助けてくれ、動けんのだ」

 そういえば床に一滴の血も流れていない。首が、取れている、といった感じだ。

 少し気味が悪いが両手で父さんの首を持ち上げた。

「おう、一樹おはよう」

「生きてるんだね父さん、おはよう」

「どうやらそうらしい。とにかく、体とくっつけてみてくれないか」

 しゃべると首から突き出た背骨が左右に揺れる。

 仰向けに倒れている体を起こし、断面同士を押しつけた。

「ああ、痛い痛い。背骨がのどに刺さっているじゃないか。もっと後ろだ」

「こうかな。どう、体動く?」

「だめだ。もう少し深く差し込んでみてくれ」

「そい!」

「あ痛。親の頭を叩くとは何事だ」

「ごめんごめん、でも体動くようになったね」

「お、本当だ。おい、おまえ」

 体が動くようになった父さんは、母さんの首を持ち上げ左右に振った。

「あ、あら。体が動かないものだから二度寝してしまいましたわ」

「しかしおまえは首だけになってもかわいいな」

「いやですよ息子の前で」

「何を見ているんだ」

「そりゃあ見るでしょうよ」

「それよりあなた、早く元に戻してくださいな」

「おおそうだな。一樹、体を起こしてくれ」

「動けないからって変なとこ触っちゃだめよ」

「だめだぞ」

「息子に何言ってんだ」

 母さんの上半身を起こすと、父さんが首を押しつける。

「ああ、痛い痛い。背骨がのどに刺さっているじゃないですか。もっと後ろですよ」

「こうか。どうだ、体は動くか?」

「だめね。もう少し深く差し込んでみてくださいな」

「そぉい!」

「あ痛。妻の頭を叩くとは何事ですか」

「すまんすまん。とにかく元に戻ったな」

「そうですね、一時はどうなることかと思いましたよ」

「そもそもどうしてこんなことになったのさ」

「どうって」

「ねえ」

 顔を見合わせる両親。どうも原因不明らしい。

「そういえばあなた、あれじゃないかしら」

「あれか——」


 どうにも信じられない。そんな偶然があるというのか。それにそんなことで人間の首が取れるのか?

「おはよう一樹君。どうしたの、思い詰めた顔して」

「おはよう。なんでもないよ、うん」

 あんな偶然。……いや、意図的にやればできないこともないぞ。

 試して……みるか?

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