第2話:2B

 じめじめとした梅雨が明けて夏休みまでのカウントダウンが始まる七月上旬のある日のことだった。

「久保さんって真宮さんと仲いいの?」

「え?」

「真宮さんと結構仲良くしてるからそうなのかなーって」

 廊下で一人のクラスメートに声をかけられた。普段はそんなことまったくなかったのに、何かと思えばあいつのことか。

「私と真宮さんが? あー……」

 彼女は基本的には人懐っこくて陽気な性格だ。誰とでも仲良く話してあっという間にクラスや他学年とも仲良くなってしまった。

 そんな状況の中で、何故か私だけには「顔がいい」だの「うなじが綺麗」と体のパーツを褒めてはボディタッチを繰り返していることを思い出す。

 なるほど。確かに仲が良さそうに見えるかも知れない。

 女子同士なのであまり気にしてなかったけれど、よくよく思い出してみれば他の子にはそんなコミュニケーションはしてなかったような気もする。なに? 隣人特権?

「真宮さんがどうかしたの?」

「別にどうもしないけど、最近の久保さんなんだか楽しそうだなって気がして。中学の頃の久保さんはずっと一人で本を読んでるような人だったじゃない」

「ああ、まあね」

「真宮さんが来てからはすっごく表情が豊かになった気がして。……正直久保さんってちょっととっつきにくいなって思ってけど普通の人なんだなって安心しちゃって――ってごめん! なんかすっごく失礼だったよね」

「いいよ。自分でもわかってることだから」

 数秒の沈黙が気まずい雰囲気を呼び込むがクラスメートが再び、

「そういえば今年もコンクールではモデルをやるの?」

 九月になるとうちの部活主導で学内デッサンコンクールが開催される。部員同士でモデルと描き手に分かれ、学内に作品を展示して投票で優秀賞を決めるという一番部活らしい活動だ。

 私自身はあまり思っていないのだけれど、周りからはよく「美少女っぽい」と言われてモデルになることが多かった。

 何をもって美少女と定義しているのかわからないけれど、性格がおとなしいことと小顔でそう見えるだけなんじゃないかと分析しているんだけれど美少女は言い過ぎじゃないか?

 それにモデルはじっとしないといけないから大変だ。だから体よくその役割をさせられているのだろうと捻くれた思考で受け止めることもあるけれど。

「多分、やると思う。もちろん描く方でも参加する」

「そうなんだ! 去年のコンクールで私もちょっと興味が出たから実は今年も楽しみにしてたんだ。今年はどんな久保さんが見れるか楽しみ」

「ありがと。頑張るね」

 彼女の中でも私はモデルというポジションになっているらしいけど、それでも興味を持ってもらっていることは嬉しかった。

 楽しみにしてくれている人って結構いるんだな。

 褒められると浮かれてしまう単純思考の私は、この日ご機嫌に過ごすことが出来たのだ。

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