PENCIL
あお
第1話:F
最悪だ。
「今日から――」
彼女の編入から数日後。その二度目の自己紹介は当然頭になんて入ってこないのだ。
二年になって迎えた新学期、私にとって悪いことが二つほぼ同時に起こった。
ひとつは転校してきた真宮さんのことをどうしても好きになれなかったこと。もう一つは、そんな彼女が私のいる部活まで追いかけてきたことだった。
私の学校は幼稚園から大学まで一貫の女子校で編入生は珍しい。
真宮聖(まみやせい)は整った顔立ちで身長も高く、ちょっと大げさに言えば宝塚のスターのような顔立ちだ。
だから直ぐにクラスの子たちからも「真宮さんキレイ」「かっこいい」なんて言われてあっという間に人気者になってしまった。それ自体は別に悪いことでもなんでも無い。幼稚園からずっと同じ人たちで固まって、ある程度グループも出来ているような環境に入っていくのは大変だと思う。だから存分にコミュニケーションをとって早くこの学校に慣れてほしいと思うのは私も一緒だ。偶然となりの席にもなれたしその時までは私も真宮さんの力になればと思っていた。
「私、久保ゆみ子。よろしくね」
「よろしくね、ゆみ子さん。私、あなたみたいな人好きなんだ。――顔がすっごく好みだから
私の好感度は一気に落ちて冷めたものになったのだ。
最悪だ。
「今日から美術部に入部することになりました。二年菊組の真宮聖(まみやせい)です。よろしくお願いします」
彼女の編入から数日後。その二度目の自己紹介は当然頭になんて入ってこないのだ。
その後部長が「編入生ということで皆さん彼女のことは知っていると思うけれど、色々と指導して下さいね」という言葉はなんかは目の前で崩れて床にボトボトと落ちたことだろう。
そんなことより、なんで? どうして真宮さんが美術部にいるの? とはてなマークばかりが頭をよぎる。
だってそうでしょ。転校してきてから二週間ぐらい経つけど、それまで全然美術部に興味があるような素振りは見せてなかった。
たしかに真宮さんは色んな部活紹介にも顔を出していたし、編入生ということで校内では注目の的だ。それに彼女自身、興味のある部活の部長や勧誘の生徒とはそれなりに話して決めたことかも知れない。
それでもクラスでは隣の私が彼女と一番話をしていたし、私が美術部に所属していることは初日の自己紹介で伝えている。……なのに私は全然知らなかった。なんで?
「確か久保さんと真宮さんは同じクラスだったわよね? 真宮さん、美術部は初めてだそうだから色々と教えてあげて」
「私がですか?」
「うん。お願いできるかな?」
部長の言葉のあとに数十もの視線が私にあつまる。――こんな状況で断ることなんて出来なかった。
「……はい」
「ありがとう、久保さん。それじゃあ今日も各自デッサンの練習――」
部長の号令で部室はいつもの喧騒を取り戻すけれど、みんなの視線だけがまだ私と真宮さんに残っている気がした。
「怒ってる?」
「別に……そういうわけじゃ」
「ならよかったわ」
別に私は真宮さんと特段仲が良い訳じゃない。ただ私は隣の席だったのでクラスメートや先生からも「真宮さんに伝えておいてくれる?」「このプリント真宮にも渡しておいて」と彼女の窓口になっていたことは確かだったのだ。
……だから一番近くにいた私が知らないのはモヤッとする。
「あのさ、どうして突然美術部に入ったの?」
「突然じゃないわよ。クラスの子や先輩たちに相談してから入部したの」
「へー。そうなんだ」
「どうしたの?」
「いや、」
なんなのこいつ? 私に聞けよ。
「ううん。部活でもよろしくね」
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