100円玉の行方
おじさん(物書きの)
かるくておもい
ポケットの中で転がしていた100円玉を、駅前の声に誘われて取り出した。そしてさも当然というように募金箱に入れる。少女の笑顔、それにありがとうございます——って、あれ、少女は笑顔のまま動かない。辺りを見回すと誰一人動いていない。時間が止まっている?
「そう時間止めちゃった」
「な、誰?」
「神様です」
「またまた」
「神様以外に誰がこんなこと出来るんですか」
「確かに。でも何でこんなことをするんですか」
「君が今入れた100円、どうなるか知りたくない?」
「どうって、まあ多少は」
「それでは100円の行方、映像でご覧ください」
「映像で――」
「にーさんーし——この100円でちょうど50万スね」
「よし、オヤジは金額にはうるさいからな」
「これで今回の上納金は集まったし、箱持の子とどうッスか」
「んなっ、こ、これは?」
「まあ見たまんまだよねえ」
「俺の100円がアレの活動資金に……」
「時間戻せるけど戻しちゃう?」
「お願いします!」
「よろしくお願いします」
箱持の子の声。どうやら時間が戻ったようで、100円玉も手の中にある。この募金はやめだ。だめ絶対。
ふと気になってコンビニへと急いだ。募金だけするのもおかしいので、適当な週刊誌と缶コーヒーを買い、ついでとばかりにアクリルの募金箱に100円玉を入れた。店員の子を見ると思った通り動かない。
「ちっす」
「どうも」
「見ちゃう?」
「見ます」
「結構募金てたまるんですね」
「ああ、そろそろ使う?」
「え、何言ってるんですか店長」
「今度これで飲みに行こうよ」
「だめですよ、募金ですよ」
「君は堅いなあ。どうせこれ20%くらいピンハネされるんだよ」
「だからってそんなのだめに決まってますよ」
「でもその慈善的なお金が年間15億もピンハネされてるんだよ? 一箱くらい大した額じゃないよ」
「だ、だからって……」
「そういえばこの前、テレビでやってて行きたいところがあるとか言ってたよね」
「……でも、いいんでしょうか……そんな」
「誰にも言わなければバレないよ、ね?」
「うおおおう、あんなに真面目そうな子があああ」
「まあ所詮あんなもんだよね」
「まぁ、ピンハネの方もあれですけど」
「人の善意ってのは悪意に利用されやすいからね。さて時間戻すー?」
「戻します」
手元に戻った100円玉を握りしめ、外に出たところで人にぶつかり、100円玉を落としてしまう。ころころ転がり止まらない。急いで追いかけ、気がつけば車道に飛び出していた。
これって神様が見せてくれる映像……だよね? 早く時間を……。
100円玉の行方 おじさん(物書きの) @odisan_k_k
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