教室の片隅から毒を吐く

神永 遙麦

教室の片隅から毒を吐く

 莉夏は校庭に目をやった。男子がサッカーに興じている。

 莉夏には分からなかった。なぜ夏の暑い時期に、しかも貴重な昼休みにサッカーをやるのか。そのことをこんこんと考えるほどの関心はない。莉夏は机に顔を突っ伏し、ピープルウォッチングに入った。


 あそこの女子グループには目をつけられたくない。目をつけられたら色々と終わる気がする、主に平穏な学生生活が。

 隣にいる男子どもには混ざりたくない。田村が持っているスマホに群がっては「チー牛」とか「終わった」とか言ってる。

 どっちも会話の質が低い。

 高校はいい所に行きたいなぁ。バイト可で、私でも入れるけど偏差値が高い高校ないかな?


 莉夏はふっと顔を上げた。ハラリと落ちた前髪が日に透けて渋めのオレンジ色に見えた。

 

 そう言えば、何でチー牛っていう蔑称があるんだろう?チーズ牛丼、美味しいよ。私だって○き屋で毎回チーズ牛丼頼むもん。将来のことを度外視すれば、チーズは多ければ多いほど幸せでしょ。ま、クラスの中でわざと孤立してる私が言っても、アレだけど。

「片親パン」ってのも嫌だ。月末の金欠期にお世話になってるもん、安いしお腹膨れるから。

「負け組ランドセル」はもっと嫌だ。高校に入ったらデリバリーのバイトしてみたかったのに。楽しそうじゃん?


 莉夏は唇を尖らせ、机に指で「の」の字を描き始めた。

 

 でも、1番嫌なのは嫌な目で見られながら「Z世代」って、ひとくくりで呼ばれること。

 確かによくZ世代の子がネットで炎上してる。ずっとスマホ見てるし、顔晒すことへのハードルも高くない。画面の向こう側に人がいるってことも想像出来ず、言いたい放題の子もたくさんいる。

 でもそれって、年配も同じでしょ?可能性はあるじゃん?


 先生が来た。安穏な昼休みは終わったあの先生、こないだまで「子ども部屋おじさん」呼ばわりだったけど、最近聞かなくなった。何があったんだろう?


 

 

 莉夏は自分の席が教室の後部隅っこにあるのをいいことに、教科書に陰を作って居眠りの体勢に入った。チョークを取った先生の薬指には指輪が光っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

教室の片隅から毒を吐く 神永 遙麦 @hosanna_7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説