放課後の味がした。
「おはよ、山鳥」
「ん……おはよ」
いつものように挨拶を交わして席に着く。前の席の山鳥は今日も眠たげだった。
開いた窓から入る風で、山鳥の髪が揺れる。長く伸びたそれは一つにまとめられ、まるで尻尾のようだった。
俺は、揺れる山鳥の尻尾を見るのがなんとなく好きだった。女子高生の背中をまじまじと見てるのはなんだか気持ち悪い絵面だけど。たまに授業中に目で追ってしまうくらいは許して欲しい。
その日の山鳥はいつにも増して眠っていた。ねむ、という名前に負けてないなと変に関心してしまう程に。放課後になっても眠そうな顔で黒板を見つめる彼女に声を掛ける。
「山鳥、帰ろう」
「んー……」
相変わらずの生返事。ほら早く、と急かして教室を出る。
「ひかるくん、わたしラーメンたべたい」
「今まで寝てたのに……?」
「うん」
仕方ないなぁ。たまにはそういう日があってもいいだろう。まだ眠そうな山鳥を支えつつ、ラーメン屋を目指す。途中、部活中のクラスメイトに「久方夫妻じゃん」なんて揶揄われたりもしたけど。まだ付き合ってすらないんだよな。
ラーメン屋に着く頃には、流石に山鳥も目覚めていた。
「何食べる?」
「んー、醤油ラーメンかなぁ」
「ん、僕は豚骨にしようかな」
食券を買って席に着く。山鳥は所在なさげに自分の前髪を弄っていた。
「山鳥、髪の毛綺麗だよね」
「へへ、そうかな。ありがと」
ちょっと恥ずかしそうにはにかむ。そんな彼女に僕も少しドキッとしてしまった。
「醤油ラーメンと豚骨ラーメン、お待ちどうさん」
良いタイミングで店員さんがラーメンを運んでくる。いただきます、と言って割り箸を割る。食べようとしたところで、山鳥が髪を耳に掛けるところが目に入った。
うわ、いいな。
前に誰かが髪を耳にかける仕草が良いって言っていたけれど、確かにドキッとしてしまう。
「どうしたの? 伸びちゃうよ」
「あ、うん」
急にまじまじと見てしまって、変に思われただろうか。
美味しそうにラーメンを食べる山鳥の向かいで、僕はラーメンの味が分からなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます