第四話・レッドアーミイ

 N市駅西口の夜の繁華街を渡会亮一は、岩尾勇次、外岡忠と恵理を襲った二人の他にもう一人今村武雄が加わって歩いていた。

 時間は午後十時、健全な高校生ならもう帰宅しても良い時間ではある。

 武雄の特徴は無口で細い眼がいつも一点をじいと凝視していることだ。亮一は武雄を危ない奴だと思っていた。恵理の件で武雄をはずしたのは、武雄のその凶暴さのせいだ。ポケットにはいつもナイフを忍ばせている。下手をしたら殺しかねない。アホが狂暴になると手が付けられない。だからはずした。

 彼らは放課後、部活でもなく、塾に行くでもなく、こうして街をうろついている。もう午前十時を過ぎ人も疎らになっている。


 すると四人の前から十人くらいの集団が歩いてきた。酔っぱらいではない。何か危険な気を発している。亮一は、ふと嫌な予感がした。避けた方が良いかなと思った瞬間だった。集団がダッシュ! 猛然と迫ってきた。

「何!」と亮一がひるんで、逃げようとした瞬間、ブレザーの首根っこを掴まれた。後の三人もおなじく捕えられた。そしてじたばたする四人は、大勢で脇道の細い路地に連れ込まれた。前方は食品倉庫のフェンスに遮られて行きどまりだ。つまり四人は今度は襲撃される方になった。あの恵理を襲ったときに感じた高揚感は無い。そこには進学高のただの落ちこぼれだ。不良のランクが違いすぎる、そう亮一は思った。ただ囲んだ男達は四人と同じ位の年に見える。

「何なんだ、あんた等」勇次が喘ぎながら云った。まあせいいっぱいの虚勢だ。

 すると長髪で耳にピアスをした男がいきなり勇次の向う脛を蹴った。

「痛っ!」とその場に勇次はうずくまった。

「西皇子学園の岩尾勇次ってのは、どいつだ?」

「俺だ」痛みをこらえながら勇次が答えた。

「立て!」長髪が吼えた。ふらふらと勇次が立つと、いきなり腹にパンチが叩き込まれた。「ぐっ」と唸って勇次は倒れた。勇次の口から嘔吐物が吐き出された。いやな匂いだ

「次、外岡忠」

「な、なに」忠には膝蹴りが腹に飛んできた。忠は腹を抱えて倒れた。「ぐううう」と忠がうめく。

 次の瞬間、武雄がポケットからジャックナイフを取り出した。それを見た金髪の男がにやにや笑いながら云った。

「いいのかそんなもん出して、殺すぞお前」

 金髪の三白眼が武雄の眼をじいと見る。武雄も見返す。異様な雰囲気が二人の間に流れた。


「シュッ」と武雄が金髪の腹めがけナイフを突き出した。しかし金髪がぎりぎりにかわす。武雄がナイフを横なぎに払う。それもバックステップでかわすと金髪が右回し蹴りを放った。蹴りがまっすぐ武雄の手の甲を叩く。武雄の手からナイフが吹き飛ばされた。次の瞬間、左回し蹴りが武雄の腹に叩き込まれた。武雄が地に吹っ飛ばされた。まあ格が違う。

 倒れた武雄に金髪が拾ったナイフを突きつける。そして凄い笑みを浮かべて金髪が迫る。

「どうだ、殺されたいか?」

 武雄はあえぐように答えた。

「いや、か、かんべんしてくれ」

 武雄は確かに危ない奴だったが、どうやら金髪の方が上手の狂犬だったようだ。


 最後、亮一が残された。

 金髪が亮一に声を掛けた。

「お前誰?」

「渡会亮一」

「お前やるか?」

 亮一は完全にビビった。

「いや、おれはやらん」

 金髪はフンと鼻先で笑った。

「利口だな。お前」

「あんたら何者だ?」と亮一が聞くと、

「俺たちは阿久津館のレッドア―ミ―だ」と金髪が答えた。

「何でこんなことをする?」

「戸田恵理を知っているな?」

「ああ」

「お前ら姦(まわ)そうとしただろ」

 何! 亮一は驚いた。

「あんた、なんで知っている?」

「それは、どうでもいい。お前ら、もしかして誰かの命令で動いてないか?」

 亮一は「それは……」

 亮一は戸惑った。こんなことになるとは思わなかった。

「あれは、教えてもらったんだ」と亮一がよわよわしく云うと、

「ハア? どういうことだ?」と金髪がねちっこく聞く。

「戸田が夜、金を持って学校に来るってメールが来たんだ。だから俺たち行って見た。そしたら本当に来たんだ、それでつい、出来心だったんだ」

 

 亮一の言葉に金髪はせせら笑った。

「出来心でカツアゲに強姦か、上等だ。それでメールは誰から来たんだ?」

「分からない。ハンドルネームは神だ。ほんとだ」

「なんだ、それ?」これには金髪ばかりではなく全員がゲラゲラ笑った。

 だが亮一の顔は真剣だった。金髪がじっと見る。


「ふーん、どうやら本当みたいだな。分かった」

「じゃ、俺たち帰っていいか?」

 金髪がいやと首を横に振った。

「全員、ズボンとパンツを脱げ!」

 亮一が思わず叫んだ。

「な、なんで!」

「お前らのしょうもない格好を写真にとる。警察に垂れこんだら写真をネットに流す。自分で脱げないなら。俺たちが無理やり脱がせるぞ」

 四人は愕然とした顔になった。

「おら、早くしろ」と金髪がナイフをちらつかせる。

 それでも四人はぐずぐず躊躇している。

「チッ、あきらめの悪いやつらだ。おい手伝ってやれ!」金髪の号令で男達が四人に群がり。無理やりズボンとパンツを脱がす。その四人の姿を長髪が携帯のカメラで撮る。そして四人のズボンのポケットに手を突っ込んで、財布を取り出し、次々と札束を抜き取った。

「さすが、金持ち学校、持っているな。今日はこれで勘弁してやる」と長髪が空になった財布を放り投げた。そして男達は悠然と去って行った。

 亮一たち四人は男達が去ってまもなく路地から出てきた。とぼとぼ意気消沈の体で歩いてゆく。

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