第98話 第4階層(その2)

 私は助けてくれたイケメン冒険者を改めて見た。


(身長は高めだね。髪は赤い短髪で、頼りがいのある良い体つきをしているかな。顔も整っていて正にイケメンだね)


 容姿だけで判断すると、最初の印象どおりイケメンであった。


「最近、冒険者ギルドの中で混雑しているときに、女の子の間で体を触られたと言う苦情が多く寄せられていたんですよ。ドナルドさん、犯人割り出しに御協力ありがとうございました」

「俺は困っている女の子の味方だからね(キラーン)」


 ケイリーさんの言葉から、この男性はドナルドと言う名前らしい。言葉の最後に歯を輝かせていたが全く嫌みに見えないのが、正にイケメンであった。


「それにしても先生も災難だったね」

「はぁ」


 私は体を触られたときは一瞬ひるんでしまったが、次の瞬間に犯人を捕まえてボコボコにする自信があった。これは前世の経験で、とあるジジイにいろいろな手を駆使されて体を触られた経験からのものであった。だが、今回はこのドナルドという男性のおかげで私は手を汚さずに済んだ。そんなことを考えてきたので、思わず気の抜けた返事をしてしまった。


「助けてくださってありがとうございました」


 それに気が付いた私は、慌てて適切な言葉に言い直した。


(でも、このドナルドさんは、私が先生をしていることを知っていたなぁ。はて、さて)


 私は救護所の手伝いを始めてから会った人たちのことを思い出していた。指名依頼を受けて1日目はそこまで忙しくなかったが、2日目、3日目と日がつうちに評判を聞きつけたのか、救護所を訪れる人数が右肩上がりに増えていった。5日目に至っては待合所の中に人が入りきらず、外で待ってもらうまでになっていた。そのため4日目、5日目辺りに救護所を訪れた人の顔など覚えるほど余裕がなかった。患者ならまだ多少なりとも記憶に残っているが、付き添いできていた人なら尚更なおさらである。


「礼には及ばんよ。ケーリーさん、仲間を待たせているんだ。俺はもう行っても良いかな?」

「はい。もう大丈夫です。今回の件で進展があればまた報告いたしますね」

「わかったよ。それじゃ俺はもう行くよ。先生、ケイリーさん、またね」


 そう言ってドナルドさんは別室から出て行った。


「ケイリーさん、あのドナルドさんを御存じなのですか?」

「ええ、主に私が担当している冒険者です。彼はBランクで、当ギルドでも上位にランクする方なんですよ。見た通りの容姿をしているので、女の子にモテモテなのです」


 ケイリーさんは私の質問に答えてくれた。冒険者ランクも高く、容姿も良いので女の子に人気があるのもうなずけた。


「もしかしてケイリーさんは、ドナルドさんに好意があるとか?」

「いえ」


 私が冗談交じりで質問すると、あっさりと答えられてしまった。ドナルドさんのことを持ち上げておいて、一気に突き落とすケイリーさんであった。


「今回の容疑者は、他にも余罪がかかっているので、取り調べが終わってから正式な処分が下されると思います。恐らく軽くても冒険者登録抹消で本土に強制送還あたりになると思います」

「そうなんですね」


 今回私のお尻を触った中年男の処分について、おおまかな目安をケイリーさんが教えてくれた。


「彼氏や夫ならともかく、見ず知らずの男性に体を触られるのは、女として許せないからね。私も激おこプンプン丸だよ」

「ケイリーさんもそういう言葉を使うんですね」

「あははは。接客用の言葉として良くありませんでしたね。アメリアさんも戻って大丈夫ですよ。何か進展があればまたお知らせしますね」


 ケイリーさんは冗談交じりで話した。


「では、依頼の貼り出されているボードを見てきますね」

「はい、行ってらっしゃい。まだ混雑していると思うので周りには十分気をつけてくださいね」

「わかりました」


 私はケイリーさんにそう告げて別室から出て、依頼の貼り出されているボードがある場所に向かった。

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