第99話 第4階層(その3)
「さっきよりは人が減っているようね」
私は依頼が書かれているボードの前に行くと、少し人が減っているように見えた。
「えっと、私が受けようと思っている依頼は・・・」
ボードの最前部まで移動し、私が求めている依頼の書かれた紙を探した。
「あった。第4階層の魔石集め」
依頼の書かれている紙は何の規則もなく、無造作に貼り出されている。そのため同じダンジョンの魔石集めでも、階層により貼られている場所が全く異なっていた。せめて同じ種類の依頼はまとめて貼ってほしいと思った。先ほど見つけたCランク以上の冒険者を対象とした第4階層の魔石集めが書かれている紙の隣には、全ランクの冒険者を対象とした溝掃除の依頼が貼られていた。
「それじゃ1枚ゲットと」
ダンジョンでの魔石集めは、複数の冒険者が受けられるため、1枚ではなく複数の紙が重ねて貼られている。私はその中から1番上の紙を1枚だけ剥がした。
「さて、これを受付に持って行かないといけないのだけれど・・・」
ここで私は重要なことに気が付いた。いつも受付をしてくれるケイリーさんは、奥の別室で別れている。そうなるとこの依頼を受理してもらうためには、他の受付に行かなければならない。ボッチが板に付いた私にとって、新たな人との会話は非常に難易度の高いミッションとなる。やはり気の知れたケイリーさんに頼むのが安心できるのだが、今回はそうも行かない。
「くっ、他の受付に行かないとダメか」
このまま突っ立っていても仕方ないので、意を決して今までと違う受付に行くことにした。
「あっ、アメリアさん、こっ、こっちですよ。ゼィゼィ」
私が違う受付に行こうとすると、いつもの受付窓口から私を呼ぶ声がした。声の主はケイリーさんだった。息を切らせながら、額に汗を
「ケイリーさん、そんなに汗を
「えっ? 別室で別れたのは良いけど、アメリアさんは私の担当している冒険者よ。あなたが依頼を受けに来たのを思い出したから、慌てて戻ってきたのよ。せっかくこのギルド内の稼ぎ頭なのに他の受付担当に任せられないわ」
ケイリーさんは、私を他の受付に担当されたくなかったようだ。
「もしかして、受付担当って依頼を受理した数とかノルマみたいなものがありますか?」
「どっ、どうかしらね。オホホホホ」
私はケイリーさんの答え方ですべてを察した。
「では、第4階層の魔石集めの依頼は受理しますね。がんばってきてくださいね」
「はい、行ってきます」
私は依頼を受理してもらい、ダンジョンに向かうために冒険者ギルドを出た。
「あぶない、あぶない。危うく他の子にアメリアさんの担当を奪われるところだったわ」
「ケイリーは良いわねぇ。稼ぎ頭の専属担当をしているものね。私のところにもそういう冒険者来ないかなぁ」
アメリアが冒険者ギルドを去ったあと、ケイリーの担当する窓口の隣を担当する受付嬢が、羨ましそうに言った。実は依頼の達成時に発生する報酬には、受付を担当した者と達成報告を担当した者に対し手数料が支払われる。アメリアがダンジョンで稼ぐ金額はかなり高額で、歩合制で受付嬢に支払われる手数料も高額になる。アメリアのように同じ受付嬢に担当してもらう人は多いので、自然に専属という形で定着する。中には毎回違う受付に行く冒険者もいるが、稼ぐ額が高額になる冒険者は固定する傾向があり、稼ぎが少なかったり、収入が安定しない冒険者は毎回受付担当を変える者が多いようだ。そのような理由で、何かの理由で冒険者が担当を変えるのは、受付嬢にとって痛手になる。
「さてと、水と食料も調達しておかないとね」
そのような受付担当の内部事情など気にしない私は、ダンジョンに向かう途中にある露店で水と食料を調達していた。今までの階層は下見の際は持ち歩かなかったが、第1、第2、第3階層を通らないと第4階層に行けないため、移動する距離もかなり伸びている。そのため下見と言っても、すぐに戻ってこられない可能性が高い。保険的な意味で今回は購入することにした。
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