第97話 第4階層(その1)

「う~ん。朝だぁ」


 翌朝、私は気持ちよく目覚めた。今日は第4階層に行こうと思っている。新たな冒険に出発する気分になっている私は気持ちが高ぶっていた。手早く朝食と準備を済ませて冒険者ギルドに向かった。



「さすがに今の時間だと混んでいるわね」


 救護所で仕事をするのも悪くはないが、やはり体を動かしたいときもある。私はダンジョンに行くのを楽しみにしていたようで、いつもより早い時間帯に冒険者ギルドに来てしまった。すると多くの冒険者たちと時間が被り、依頼の貼り出されているボードの前は多くの冒険者であふれていた。


「仕方ない、あの中をかき分けていくしかないか」


 私は、覚悟を決めて以来の貼り出されたボードの前まで移動した。


「むぎゅぅ、苦しい」


 群がっている冒険者たちは男性が多い。ドサクサに紛れていろいろなところを触られた気もするが、何とか依頼の貼り出されたボードの前に辿たどり着いた。


「えっと、第4階層の依頼書は・・・。ひゃうぅ」


 私が依頼書を探していると、体を誰かが触っている感触がした。


「おい、お前! さっきこの子の体を触っていただろ!」

「なっ、何だ急に。オレは何もやっちゃいねぇ」


 突然の大声に周りが静まりかえった。そしてその声の人物を中心に人が避けて、私と声を上げた男性、そして彼が手を捕まえていた中年の男が残った。


「証拠もないのに言いがかりをつけるなどひどやつだな」

「何だと? 俺はハッキリと見ていたぞ。だからその場で手を押さえたんだ」


 声を上げたのは若い男の冒険者だった。顔はなかなかのイケメンで、多くの女性は思わず振り返ってしまうくらいだと私は思った。彼と容疑者の中年男性は言い合いを始め、両者平行線をたどった。


「おや? よく見たら救護所の先生じゃないか。もしかして冒険者もやっているのか?」

「いえ、冒険者が本業で、医者の仕事は依頼を受けてしていたのですが」


 イケメンの冒険者は私の顔を見て、気が付いたように言った。


「なにっ? 救護所の先生に変なことをするなんて許せないな」

「そうよ。私は先生に傷を治してもらったんだから」

「俺だって治してもらったぞ。恩人の先生に対し、とんでもないことをするやつもいた物だな」


 イケメン冒険者のひと言で、私が救護所で先生をしていたことに周りの冒険者が気づきだした。


「うっ」


 段々雲行きが怪しくなり、容疑者の中年男性の顔色が悪くなってきた。


「ゆるさねぇ。やってしまえ」

「覚悟しやがれっ」

「先生は島に大事な存在なんだ、いくら可愛かわいいからって許さねぇ」

「ギャーっ!」


 周りの冒険者たちが一斉に容疑者の中年男性に襲いかかった。


貴方あなたたち、何をやっているの!」


 騒ぎに気が付いたケイリーさんが止めに入り、近くにいた冒険者ギルドの職員総出でこの騒ぎを止めに入った。そして私とイケメン冒険者、そして容疑者の中年男性が別室に連れて行かれ、事情を聞くことになった。



「・・・なるほどね。それでアメリアさんの体を触ったと」

「俺はやっちゃいねぇ」


 別室でギルド職員に囲まれた中でケイリーさんが、容疑者の男に尋ねた。すると彼は容疑を否認した。


「では、こうしましょう。ここにうそを言うと光る玉があります。これに触れた状態でもう1度尋ねます。これは冒険者同士のトラブルが起きた際に使用するものですが、このような場合にも使用しています。さあ、この玉に手を触れてください。そしてもう1度、同じことを尋ねます。それで真偽がわかるはずです」

何故なぜオレがそんな物に触れないといけないのだ。オレを元から犯人だと決めつけているのだろ?」


 容疑者の男は真偽を測る玉に触れるのを拒否した。


「つべこべ言わず、触れるんだ」

「やっ、やめろっ」


 屈強なギルド職員に無理矢理やり手を玉に当てられた。


「では尋ねます。このアメリアさんのお尻を触りましたか?」

「触る訳ないだろ!」


 ぽわ~


 すると透明だった玉が白く輝きだした。


「なるほどな。別室で話を聞こうか」

「やめろっ、やめろって言っているだろ」


 容疑者の男はそのままギルド職員に連れられて部屋を出て行った。


「アメリアさんも、とんだ災難だったわね」

「そこまでは思っていませんが、突然のことで驚いただけです」


 部屋には私の他にケイリーさんと男を捕まえてくれたイケメン冒険者だけが残った。ケイリーさんは心配したように私に語りかけてくれた。

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