第4話 私の家

「さて、私も帰ろうかな」


 ビクトリア様と取り巻きの2人を見送った後、私は家に帰ることにした。ごく平凡な平民家庭なので当然のことながら3人のように馬車で帰宅などできるわけもなく、徒歩で帰宅である。学園で使用した勉強道具を入れたかばんを持ち、学園を後にした。


「おっと」

「うわっ」


 学園を出てしばらく歩くと人通りの多い商店街だ。買い物を楽しむ者、仕事で歩いている者など様々な目的で多くの人が歩いているのだが、私の顔を見ると皆が驚いた表情をして慌てて道を空ける。


(そんなに驚かなくても良いのに)


 学園に通い始めた頃は、行き交う人たちの行動にショックを受けたのだが、今は少し慣れてきた。言うまでもなくその原因は、私の顔にあるあざなのだが、人がよけてくれるおかげで、人混みを歩きやすくなったと割り切ることにした。



「ただいま」


 商店街を抜けて平民の住宅地に入る。その中に私の家がある。父と母の3人暮らしで、両親は共働きだ。そのおかげで貧しいながらも私は勉学に打ち込める。連なっている集合住宅の中にあり、5階建てのボロボロな建物の5階に私たちの家がある。扉を開けても両親は働きに出ているため誰もいない。


「今のうちに掃除をしてしまおう」


 私は掃除道具を持って部屋の掃除に取りかかった。建物は古くボロボロだが、古いと汚いは別のものである。両親が仕事に専念できるように、私は家事全般を引き受けている。



「さて、掃除は終わりっと」


 日頃から部屋の掃除をしているので、2部屋しかない我が家の掃除はすぐに終わる。


「次は水みだな」


 生活用水を運ぶためのバケツを持ち、私は階段を駆け下りた。


「こんにちは」

「あら、こんにちはアメリアちゃん」


 学園にあるような水道設備はこの家にはないので、生活で使用する水は下にある共同の水み場に行かなければならない。私がそこの行くと、先に近所のおばさんが井戸から水をみ上げていていた。私が挨拶をすると、おばさんも挨拶を返してくれた。この近所に住む人たちは幼い頃から私のことを知っていて、顔に付いたあざのことは気にせず話しかけてくれる。それはとても心地良く安心できる生活環境であった。


「よいしょ、よいしょ」


 井戸の滑車に付けられたロープを引っ張り、水の入ったおけを引き上げて、持ってきたバケツに移し替える。この作業を数回行いバケツに水を満たしていく。


「ふっ、こんなものかな」

「アメリアちゃん、こんにちは」

「こんにちは」


 私がバケツに水をみ終わり、額に付いた汗を拭っていると、水みに来た他のおばさんと会った。軽く挨拶を交わした後、私は重くなったバケツを持ち、5階までの階段を上った。これを複数回往復し、必要な水を確保した。それからその水を使い夕ご飯の支度に入った。食材は昨日まとめて買ってきたのでそれを使い、手際よく火をおこしてから準備に取りかかった。


「よし、こんなものね」


 私が料理を終えた頃、両親が帰宅した。3人で食事を取った後、私は自分の部屋に入った。この家は2部屋しかないが、勉学に打ち込めるようにという両親の計らいで、1部屋を私用として使わせてくれている。私はランプの明かりをけて備え付けられた机につき、勉強を始めた。


 国立学園は授業料が高く、この家の収入では通うなど不可能であった。だが、なぜそんな私が学園に通えているかというと、奨学金である。この奨学金は国が優秀な人材を育成するために出しているもので返済の義務もない。これを獲得するために私は必死に勉強をした。もちろん学期ごとに審査があり、規定の成績を収めなければ奨学金が打ち切られてしまう。そのため日頃からの予習復習は大切なものであった。

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