第2話 顔のアザ

 私はビクトリア様たちと別れて、1人でお手洗いに入った。出入り口の扉付近に設置されている洗面台に備え付けられた大きな鏡で自分の顔を見ていた。


(相変わらず醜い顔・・・)


 私は自分の顔を見るたびに嫌な気持ちになる。左目付近に大きなあざがあり、これが原因で私の顔はとても醜く見える。以前はこれを隠せる化粧品があったのだが、成分の中に蓄積されると体に害があり、死に至る可能性のあることがわかり、国により製造販売が禁止されてしまった。それがちょうど国立学園に入学する前の出来事であった。


(あの化粧品があれば、このあざを消せたのに、何で売ることを禁止したのよっ)


 この化粧品を使用したことで、体に害があると突然言われても、それまで使用していたが、特に体に変調は起こらなかった。そのため突然の販売停止に、当時の私は崖から突き落とされたような気持ちになった。学園の入学を控え、それまでは、その化粧品で隠していたものが隠せなくなり、その醜いあざさらした状態で通学することになった。比較的安価であったため私のような平民でも入手が可能だったが、他の代用になりそうなものは高価で手が届く物ではなかった。このあざが原因で入学からしばらくの間は怖がられて誰も話しかけるものがいなかった。そればかりか、クラスの中で浮いた存在になり、変なうわさも立てられて、孤独な学園生活を送っていた。


「はぁ。幾ら考えたところで、このあざが消えるわけもないしなぁ」


 私はこのあざをさらしたまま、1年以上学園に通っている。入学してから孤独を通し、それなりの日がったところで、当時は別のクラスだったビクトリア様が私に話しかけてきた。それを機に孤独だった学園生活が一転した。当時のことを思い出しただけでも、私はビクトリア様に対し感謝の言葉しかなかった。取り巻きとして仲間に加えてもらい、行動を共にすることが多くなった。


「あっ、そうだった。あの男の忌ま忌ましい血を洗い流さなくては」


 ライアンから出た鼻血が私の手にべっとりと付着している。水分は失われて赤黒くなり、あの男の鼻から出た血だと思うととても嫌な気持ちになった。


「わざわざ井戸に行かなくても、蛇口をひねると水が出るのはとても助かる」


 この学園のお手洗いには、この学園の水回りには珍しいものが備え付けられている。通常なら水を用意するためには井戸に行き、水をまなければならない。これは結構な重労働である。日頃の生活では当たり前のように井戸で水をんでいるので慣れたが、んだ水を家に運び込むのも、これもまた重労働である。だが、この学園ではそのような重労働をする必要がない。魔動機と呼ばれる機械を使い、井戸から建物の上部に備え付けられた貯水タンクに水をみ上げめている。それを各場所に配管し終端部には蛇口が設置されている。それをひねると水の高低差を利用し、水が出てくる仕組みだ。


「・・・」


 私は先ほどまで嫌悪感しかなかったライアンの血を見ていると、次第に別の感情と言うか興味が湧いてきた。


「他人の血ってどんな味がするのだろう?」


 1度興味を持ってしまうと、それをどうしても確かめてみたいという衝動に駆られた。


 キョロキョロ


 私は、元々人の気配がなく、お手洗いには自分以外の人物はいないと確信していたが、念のためもう1度まわりを確認した。


「誰もいないよね?」


 ペロッ


 本当に興味本位でやってしまったことだが、この血をめてしまったことで、私の人生は大きく変化していくのだった。

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