今は取り巻きだけど、実は前世で聖女でした。

いりよしながせ

第1話 取り巻きやってます

「あなた、ビクトリア様にぶつかっておいて何もないの?」

「あっ、はい、ごめんなさい」


 私はビクトリア様の取り巻きをしている。ここは国立学園で私は2年生だ。学年も新たに変わった新学期早々にその事件は起こった。同じクラスに在籍している男子生徒ライアンが、あろうことか侯爵家令嬢のビクトリア様に廊下でぶつかったのだ。本来なら彼がぶつかる前に、身を挺してビクトリア様を守るのが取り巻きの使命というものであったが、他に同行していた2人の取り巻きも、初手が遅れて割って入れず、このような事態になってしまった。


 ライアンはぶつかった衝撃で尻餅をつき、ビクトリア様は倒れかかったが他の2人の取り巻きがそれを防ぎ、大事には至らなかった。何もできなかった私はそのイライラも含め、加害者であるライアンに対し、先ほどの言葉を発したのである。彼はすぐに詫びを入れたが、私の腹の虫は収まらなかった。


「は? それが、侯爵家令嬢のビクトリア様に向かって言う言葉ですか? この平民風情のくせにっ」

「そうですわ」

「そうザマス」


 私は、他の2名の取り巻きとともに、ライアンに対し詰め寄った。


「だから、謝っているだろ!」

「何ですか? 逆ギレですか? そんなあなたにはお仕置きが必要ですね。ふんっ」

「ぐはっ」


 私は座っているライアンに対し、蹴りを入れて倒した。


「私が許します、この無礼者にはお仕置きが必要です。やってしまいなさい」

「かしこまりましたわ」

「わかったザマス」


 他の取り巻き2人も加わり、3人がかりで無抵抗のライアンに対して蹴りを入れまくった。


「もう良いですわ。時間の無駄ですから行きましょう」


 ライアンを見下すように見ていたビクトリアは、吐き捨てるように言った。




「おらっ! 何か言ってみたらどうなの?」

「ははは。良い運動になりますわ」

「おら、おらっ、ザマス」


 それから私達はライアンをいじめの標的にし、何度も彼を呼び出し暴行を加えた。次第にその行為はクラスのもの全員が知ることとなったが、侯爵家令嬢に対して意見を言うと、自分の身に災いが降りかかるのを恐れて、誰もライアンを助けるものはいなかった。私達の行為もエスカレートし、ライアンには無数の傷やアザが付いていた。こうして楽しいおもちゃを見つけた私達はライアンをいじめ続け3か月が経過していた。


「汚っ! 鼻血なんか出すんじゃないわよっ」


 私がライアンの鼻を蹴ったときに、彼は鼻から血を流した。


「ぐすっ、どっ、どうして僕ばかりいじめるんだ。僕が何をしたって言うんだよ」


 ライアンは顔が血まみれになりながら、泣きながらビクトリアに対し訴えた。


「ビクトリア様に口をきくなんて何様のつもりザマス」

「ぐはっ」


 その言葉を聞いた取り巻きの1人、言いにくいので便宜上取り巻きBと表しておくが、彼女が思いっきりライアンの腹を蹴った。


「今日はこのくらいにしておきましょう。皆さん行きますよ」

「「「はいっ」」」


 動きが鈍ったライアンに飽きた様子のビクトリアは、今日はこのあたりで開放することにした。私達にそう告げるとこの場を立ち去り、ライアンを放置したまま慌ててその後に続いた。



「アメリアさん、お手洗いに行って、その浴びた返り血を洗ってらっしゃい」

「え? 本当だ」


 移動途中にビクトリアが私に対して言った。彼女の言うとおり、手などにライアンの鼻血が沢山付着していた。


「では、お言葉に甘えて行ってきます」


 私はビクトリア様と別れて、お手洗いに向かうことにした。

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