最終話 お酒は特別な人と
リンは冷蔵庫からお酒を取り出した。
「ん。好きなの選んでちょうだい」
「あたしはこれにするわ」
ソファーに戻る二人。
缶ビールの蓋を開ける。
プシュー
「かんぱーい」
コン
ゴクゴクゴクゴク……
ゴクンゴクン……
「あ~~っ……一口目ってなんでこんなに美味しいのかしら!」
「んふふ。ここでお酒を飲むなんて……想像もしてなかったわ」
「あたし、妹がいるんだけどね……お姉ちゃんは彼氏以外の前では絶対に飲んじゃダメって言われてて」
「なんでだと思う?」
「んふふ。そうねぇ……脱いじゃうみたいなの」
むせる男。
「ちょっと大丈夫!? すごいむせちゃって……」
リンは男の背中をさすった。
「んふふ。安心して。言いつけを守らなかったことは一度もないから。自分でも、お酒を飲むと脱ぎたくなるのわかってるから、妹とお母さんの前でしか飲まないようにしてるの」
「だから……男の人とお酒を飲む時は……その人はあたしにとって特別な人ってわけ」
「もちろん、妹とお母さん以外の人と一緒にお酒飲むの……これが初めてなんだからっ……またあんたはあたしの初めてをゲットしたんだからねっ……わかってるぅ?」
「んふふ。照れてるのほんと可愛いわねぇ……いじわるしたくなっちゃう」
「ねぇ……口移しで飲ませてあげよっか?」
「……んふふ。冗談よ。キスもしてないのにそんなことするわけないでしょ」
「でも……耳かして」
男の耳元に顔を近づけるリン。
「あんたがキスしたくなったら……いつでもしていいから……待ってるわよっ」
ささやき声で言うリン。
「……あはははは! も~う! ゴクゴク飲んじゃって~! 照れ隠しでしょ~! もっとゆっくり飲まなきゃむせるわよ~」
ゴクンゴクンゴクン……
「……はぁ……なんだか熱いわね……」
「ねぇ……脱ぎたくなってきちゃった……Tシャツ脱いでいい?」
「……んふ。そうよねぇダメよねぇ……んー……」
「じゃあ……あたしが脱がないようにどうにかしてよ」
「…………んも~! そこは抱きしめなさいよ~! あんたがあたしをぎゅって抱きしめてたら、脱ぎたくても脱げないでしょー?」
男はリンを包み込むように抱きしめた。
「んっ……んふっ…………はぁ~…………」
「……うん……背中さすって……」
男はTシャツの上からリンの背中をさすった。
「ちょっとー……Tシャツの上からじゃなくてちゃんと素肌をさすってちょうだいよ。ほらTシャツめくって」
男はTシャツをめくり、リンの背中をさすった。
「んー……気持ちいい…………はぁ…………」
「ねぇ……今からお返しをしてあげる。じっとしてなさいよ?」
チュッ
チュッ
リンは男のほっぺに二回キスをした。
「んふふ~。ほっぺにキスしちゃった」
「んふふっ。嬉しい? もう一回してほしいの? しょうがないわねぇ~♪」
チュッ
チュッ
「んふふっ」
「……何よ……どうしたのんっ…………………………」
「はぁっ…………えっ……えっ!」
「なっ……なんてタイミングでキスしてんのよあんたっ……もうっ……!」
「ダメじゃないわよ! すごく良かったわよっ!」
「………………あたしたち……キス……したのね…………」
「んもうっ! そんな真っ赤にならないでよっ!」
「それは言っちゃダメでしょ! わかってるわよあたしも真っ赤なことくらいっ……」
「…………ん!」
「もう一回して……」
男はリンにキスをした。
「……………………………………はぁ……はぁ……」
「何よあんた……さっきよりも上手になっちゃって……ったくぅ…………」
「ねぇ……耳触ってよ」
「んっ…………んふ……くすぐったいけど…………気持ちいい………………ん~…………」
「…………そんなに……優しい目で見つめないでよ……恥ずかしいじゃない……」
「ねぇ……もう一回キスしてよ……それからここを出ましょ」
唇を重ねる二人。
静かなキスの音と、リンが男のTシャツをぎゅっと掴む音が静かに響く。
「はぁ…………ほんとあんたって…………なんでそんなすぐ上手になるのよっ! 気持ちよすぎてどうにかなっちゃうかと思ったじゃない……もうっ………………」
「……どうしちゃったのよ……ちょっと何~? 両手で顔隠しちゃって……」
「え? ……んふ……可愛すぎて僕の方がどうにかなりそうですってあんた…………んふふっ」
ソファーから立ち上がる二人。
「さっ……これであたしのここでの仕事は終わりね……店長に挨拶してここを出るまでは癒やされ嬢だから、連絡先を交換するのはその後でね」
「どこかで待っててくれる?」
「そうね。そこがいいわ」
ドアまで歩く二人。
男はスリッパを履いた。
ガチャ
「じゃあ……また後でねっ……行ってらっしゃい」
**
「お待たせ。ごめんね……こんな時間になっちゃった……待ちくたびれたわよね」
「んふふ。ありがと」
「あ、先に連絡先交換しておきましょ」
歩き出す二人。
「……なーんか……婚約したって実感が沸かないわね……不思議な感じ……」
「……えっ? 今から? ……行って良いの……?」
「じゃあ……お邪魔させてもらうわっ」
「この時間だから……あんたんちに泊まるってことよね……?」
「ねぇ……今夜……したいの?」
「っ……そう……したくないの……ふーん…………」
「……わかってるわよ……あんたがあたしをすっごく大事に思ってるってことくらい……」
「……えっ? ……それって……同棲するってことよね……?」
「嫌なわけないでしょ……すっごい嬉しいに決まってるじゃないっ…………んふふっ……」
「じゃあ……いつでもあんたに色んな事できちゃうのね……ふふ。最高じゃない!」
「……も~う! 何よどうしたのよ」
「……ふふ。いいわよ。そんなに手繋ぎたかったのね。まぁ……あたしも繋ぎたかったけど……」
手を繋ぐ二人。
「ねぇ……あたしとあんたはもう、癒やされ嬢とお客さんの立場じゃないから……だから……これからはあたしもあんたのこと、いっぱい癒やしちゃうんだからね! 覚悟しなさいよ!」
「……何笑ってんのよ。今笑うとこじゃないでしょ」
「……え? んふ……そう……これまでもずっとあたしに癒やされまくってたってわけね……ふふ。そうなのねっ♪」
「でも、これからはもっとすごい事しちゃうんだから! 楽しみにしておきなさいよっ!」
「……あんたの手っておっきくて優しくて……あんたに守られてる感じがするのよねぇ……んふふ。あたし、あんたと手繋ぐの好きよ」
立ち止まる男。
「……ちょっ……急に止まってどうしたのよ」
「……えぇ……言ったわよ……」
「あんたとは特別な関係になったんだし……あたしも素直に『好き』って言いたくなったのよ……」
「でもあんたのことは好きじゃないわよ」
「んふふ。すごい顔。ちゃんと最後まで聞いて」
「あんたのことは……好きなんかじゃ表現仕切れないのよ……わかる? だから…………大好きなのよっ!」
「好きじゃ全然足りないの……大好きでも足りないけど……やだもう! 恥ずかしいじゃない!」
「え? …………んふふ。やっぱり今日我慢したくないかもって? いいじゃない……我慢する必要なんてないわよ……」
「んふふ! も~う! どっちなのよ~! 夜で暗いけど、あんたが今真っ赤なゆでだこになってることくらいわかるんだからねっ!」
「……うん……そうね……週末はあたしの誕生日ね」
「……んふふっ……わかったわ……その日にするのねっ……んふふっ」
「ねぇ……楽しみねっ……」
「あはははは! 照れてる~~~! んもう可愛いんだからっ!」
「さっ! 早く帰りましょっ」
二人は夜道を楽しそうに帰って行った。
癒やされ嬢 オビレ @jin11
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