第3話 手料理

コンコン


「はーい」


ガチャ


「お帰り」


 男はスリッパを脱ぎ、リンと共に部屋の奥へと進む。


「ねぇ、ここ一週間毎日来てるけど、そんなにあたしのこと好きなの?」


「……んふっ。そう……ありがと……」


 ソファーに座る二人。


「んふふ……今日はねぇ……あたしの手料理を食べてもらうわ」


「そうよ。前に作るって言ったでしょ? 肉じゃがね」


「んふふふ。嬉しそうね」


「じゃあ器によそうわね」


「ん?」


「えぇ、当たり前じゃない。今朝作っておいたの」


「……そんなに作るとこが見たかったの?」


「あんたねぇ……肉じゃがは出来たてより寝かせた方が美味しいのよ」


「んふふ。あんたってほんとわかりやすい」


 二人は立ち上がり、台所へ向かった。


 コンロには鍋が置かれている。

 リンは換気扇のボタンを押し、コンロの火をつけた。


「この間に……あ、キウイ好き?」


「そうなの。あたしもよ」


 リンは冷蔵庫を開けてキウイを取り出した。


「半分に切ったのをすくって食べたい? それとも皮をむいて切ってほしい?」


「わかったわ、じゃあ用意するわね」


「エプロン? キウイ切るだけだから要らないわよ」


「……着てほしいの?」


「んふふ。いいわよ、二枚あるんだけどどっちのエプロンがいいの?」


 二つのエプロンを持つリン。


「こっち? ふーん。シンプルなのが好きなのね」


 エプロンを着るリン。


「はい。後ろのリボン、結ばせてあげる」


「……ん?」


「何してんの? 早く紐持ちなさいよ」


「んふふ。あたしを癒やすための時間なのに、自分ばっかり癒やされてて申し訳なく感じてるのね。ほんとあんたって…………ばっかじゃない!?」


「あんたがそうやって照れたり喜んだりしたら、こっちだって癒やされるのよ?」


「そうよ。何よその顔。ほんと可愛い反応するわよね」


「早く結んでちょうだい。肉じゃができちゃうじゃない」


 男はリンのエプロンの紐を結んだ。


「どう? 似合ってる?」


「んふ。ありがと」


 まな板を出すリン。

 キウイを洗って皮をむき、まな板の上で切る。


「んふふ。ガン見しすぎ」


 リンはお皿に盛ったキウイにラップをかけた。


「デザートに食べるでしょ? 冷蔵庫に入れておくわね」


 そう言って切ったキウイを冷蔵庫にしまった。


 リンが鍋の蓋を開ける。いい感じにぐつぐついっている。


「うん、よさそうね」


 火を切り、器に肉じゃがをよそうリン。


「はい。熱いから気をつけてね」


 男はリンから肉じゃがの入った器を受け取った。


「そこのテーブル席で食べましょ。好きなとこ座って」


 男はダイニングテーブルの椅子に座った。

 リンは二つのコップに水を入れテーブルに置いた。


「はい、お箸」


 リンはお箸を渡し、席に着いた。


「どうぞー。いただいてちょうだい。熱いからよくふーふーするのよ?」


 ふーふーして食べる男。


「そう。んふふ、よかったわ」


「…………ふふ……ほんと幸せそうに食べるわねぇ……」


「んふ。うまいこと言っちゃって。あたしが作った肉じゃがじゃなくても同じような顔して食べるんでしょ~?」


「……そ……そんな真面目に否定しなくても……。わ、わかったから! そんなに褒めないでよ! あたしの作ったものが一番好きなのね? わかったからっ……」


「ねぇ、ふーふーしてあげよっか」


「いいわよ」


「ふー……ふー……ふー……」


「んふふ」


「お腹空いてないんだけど、あんたが食べてるとこ見てたら食べたくなってきたわ」


「一口ちょうだい」


「お箸かえなくていいわよ。早くあーんしてちょうだい」


「気にしないわよ。あんたと間接キスするの、別に嫌じゃないわよ」


「どうしちゃったの~? 顔真っ赤よ~? んふふ」


「あたし猫舌だからよくふーふーしてよね」


 肉じゃがを食べるリン。


「うーん。美味しい。さすがあたし」


 リンは立ち上がり、冷蔵庫からキウイの皿を取り出した。

 ラップを外し、フォークをキウイにさす。


「キウイ食べさせてあげるわ。口開けて」


「あーーん」


「んふふ」



 食べ終えた後、男は食器を洗った。


「洗い物してくれてありがとね」


 二人はソファーに座った。


「はぁ~~~……なんか眠たくなってきた。あたし横になるから、あんたは床に座ってくれる? 背中さすってもらうから」


 男は立ち上がり、リンはソファーにうつ伏せになった。


「ん。Tシャツめくって」


「だから~、Tシャツめくってちょうだいって言ってるのよ」


「服の上からじゃなくて、直接さすってほしいの。そこにオイルあるでしょ? それを塗る感じでね。マッサージじゃないわよ、軽くさすってほしいだけだから」


「あはははは! も~! あんたの反応見るの楽しいわぁ~」


「安心して? 中は水着よ。下着のままであんたに言うわけないじゃない」


「だから~、触っていいからお願いしてるんでしょ。さっさとしなさいよ」


「……んふふ。緊張してるわね」


「オイルはまだ手に塗っちゃダメよ。Tシャツをめくってからね」


 男はそーっとリンのTシャツをめくった。


「ふふふ。す……んごい丁寧ね! どんだけそーっとめくるのよ」


「オイルは少しでいいから」


 男は手にオイルをつけ、リンの背中にそーっと手を置いた。


「ふふ。ソフトタッチねぇ……そのままゆっくりさすってくれる?」


「んーーー…………いい感じ…………はぁー…………」


「背中さすってもらうと……安心するのよねぇ…………わかる?」


「ふふ、あんたもなの。あたしもよ。子どもの頃、寝る前よくお母さんにさすってもらったわ……」


「なんか…………手からあんたの緊張とか……ドキドキしてる感じが伝わってくる……あんたってわかりやすいから可愛い……」


「……すー…………すー……」


「……ん? ……寝てないわよ…………起きて…………る…………」


「……もー……心配性ねぇ…………もういいわ……ありがと……」


「ん」


 上体を起こすリン。


「ん~~~……」


 背伸びをする。


「はぁ~…………ん」


 ソファーを手でポンポン叩くリン。


「あんたも座りなさいよ」


 男はリンの隣に座った。

 男にくっつくリン。


「んふ。照れてる~? ねぇ、手、繋いでよ」


 恋人繋ぎする二人。


「ふぅ…………あんたってなんか安心感あるのよねぇ……どうしてかしら」


「いつもみたいに何か話してちょうだい。あんたの話聞いてると落ち着くのよ」


「うん…………んふ…………うん…………んふふ…………ほんと?」


**


 ドアの方へ向かう二人。

 男はスリッパを履いた。


「ありがとね。たくさん癒やされたわよ」


「……今欲しいもの?」


「何かしら……突然言われると難しいわねぇ……」


「別に……あんたが選んだものだったらなんでも嬉しいわよ」


「んふ。照れちゃって~」


ガチャ


「行ってらっしゃい。早く帰ってきてよね」

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