第5話
仕事を片付けて、一人分の豚キムチをつくっていると、突然陽くんが帰ってきたので驚いた。
「ただいま」
「おかえり」
陽くんはまるでなにごともなかったように笑っている。どういうテンションなんだろうか。すごく気まずい。
「昨日はごめん」
陽くんはいつも、わたしが悪いときもこうやって先に謝ってくれる。そのおかげでわたしたちは続いている気がする。
「わたしこそごめんね。すぐ変なこと言っちゃうから」
「そうだね」
陽くんは会議でお客さんの話を聞いているときみたいなやわらかい笑顔でうなずいた。
「今週末、茉優ちゃんとここに行ってみたいんだけど」
陽くんが渡してきたスマホに表示されたウェブサイトを見る。病院かなにかのサイトみたいだった。
「カップルカウンセリングっていうものがあって、夫婦とかカップルの相談に乗ってくれるんだって」
カップルカウンセリングがどういうものなのか、全然想像がつかなかった。相談に乗ってもらって、なにがどうなるんだろうか。
「昨日、正直もう別れた方がいいのかも、と思ったけど、茉優ちゃんと別れたくないから、行ってみたい」
サイトに載っている心理療法についての説明もなんだか胡散臭いし、気が乗らなかったけれど、もし行きたくないと言ったら別れることになるんだろう。それは嫌だ。
「あんまりよくわかってないけど、いいよ。行こう」
陽くんは「ありがとう」と言ってうれしそうに笑った。行くと言ってよかった。
「共有カレンダーに入れとくね」
カレンダーを確認すると、土曜日の予定に「カップルカウンセリング」が追加されていた。土曜日までの夜に「スキンシップ」の予定は入っていない。めちゃくちゃうれしかった。そんなことによろこんでいるのが、陽くんに申し訳ない。こんなにどうにかしようとしてくれているのに。
「豚キムチ食べていい?」
陽くんが聞いてきた。
「ちょっとだけしかないけど」と、お皿に豚キムチを少しよそってあげる。
「めちゃくちゃおいしい!」
陽くんがあんまりにもおいしそうに食べるので、もうすこしあげた。陽くんは、わたしの数少ない料理レパートリーの豚とキムチとめんつゆをごま油で適当に炒めただけの豚キムチを、いつもこうやっておいしいおいしいと言って食べてくれる。それはすごくうれしい。食べ終わった後、寝る支度をして、陽くんがテレビゲームをしているのを陽くんの膝を枕にして見ていたら、すぐに眠くなってきた。
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