第23話 妨害者
7時間後。
佐々木が結界が解除されると予想した時間になった。
少し前に再集合を果たした4人は改めて見張りを始めていた。
そして結界が解除される。
終業を知らせるチャイムの音とともに学生が校舎から吐き出されていく。
4人は目を凝らし、法力を放出している人間を探す。
法力を持っている以上ある程度それを抑える術を心得ていることが考えられるが0にできる者はほとんど存在しない。
0.1でも、限りなく0に近かったとしても、法力を持っている人間と持っていない一般人では明確な違いが存在して居る。
それを見分けるのは転法輪寺高等学校の授業で一番初めに習うことだった。
見極めることが出来なければ一般人と法力を扱いし仏僧の区別がつかず、一般人を攻撃対象としてしまう危険が高まる。
逆に言えば、流転側も四人の探偵団の法力を見切ることだってできる。
だが、今の彼にはそんな余裕は無いようだった。
「いたぞ、アイツだ」
真っ先に見つけた山田が指をさした先にはジャージ姿の男がいた。
青色をベースにしたジャージは他の学生が制服を着ている中、とても目立った。
短髪で爽やかなその男は細身ながらも運動部に所属しているのかしっかりと筋肉がある様子だった。
肌の色は白よりも褐色寄りで目はくっきりとしていたが、なにか考え事をしているのか目を細め、手を顎に当て、唸っていた。
「明らかにオカシイ奴だな」
「人の目線とか気にしないのかしら」
木下が心配してしまうほど、流転は浮いており、加えて周囲の人間からは冷たい視線を向けられていた。
標的は決まった。
あとは後ろをつけるだけ。
山本の声で一同が動き出そうとした時。
「待って。私はここにいる」
突然佐々木が学校に残ると言い出した。
「尾行に4人も必要ない。私は明日までこの学校に残って結界の謎を解きたい」
三人は驚いた表情を見せた。
今まで佐々木は自分の望みを言うことはなかった。
いつも誰かに従い、それでも悪い顔一つしないで付いて来た。
その佐々木が突然自分の意思を主張したのだ。
「確かに、あんな奴に四人も必要ないし、いいんじゃない?」
木下は賛同する。
「俺も異議ないぜ」
山田も頷く。
だが、山本は頷かなかった。
「俺も残る」
「なんでそうなるんだよ」
山田は思わず突っ込んだ。
「佐々木氏を一人にできない。彼女は大事な団員だ。団員の安全を守るのが団長としての務めだ」
「たしかに、夜とか早希一人だと心配」
「別に私は一人でも構わないけど……」
佐々木の一言に傷を負う山本。
だが、確固たる思いはあるようだった。
「尾行に三人もいらないだろう」
「またそれかよ」
山田に突っ込まれつつも押し通す山本。
「そ、それに二人と二人に別れればバランスがちょうどいい」
「なんのバランスがいいかわかんないけど、いいんじゃない?男手が必要になることもあるかもだし」
木下は佐々木の方を向いた。
「あとは早希次第ね」
「私は構わない」
「決まりだな」
山田は頭の後ろで手を組むと大きくあくびをした。
「じゃあ行こうぜ、見失うぞ」
独りでに歩き出した山田を追いかけるように木下は歩き始める。
後ろから団長山本が、気を付けろよ、と言った。
学生が多く、見失いそうになる。
だが、幸運にも尾行対象はジャージ姿でとても目立っていた。
ずっと俯き、考え事をしていた。
「何か悩みでもあるのかしら」
「さぁな」
流転はバス停を素通りし、大通りを奥へ奥へと進んでいった。
「徒歩圏内?」
「だとしたら早めに声かけたほうが良くないか?」
二人の足は自然と速くなる。
周囲にいた学生の数が少なくなって来た。
やはり多くの学生はバスに乗るようだ。
気付けば周囲には誰もいなくなっていた。
学生どころか、人一人としていなかった。
二人は当然異変に気付いていた。
だが、どう対処することもできなかった。
突如として現れた結界に。
ただ前を歩く対象を追うだけ。
それしかできない。
世界が歪む。
視界が揺れる。
ここはどこだ?
気付けば対象を見失っていた。
そして目の前には別の人間の姿があった。
「あんた、誰?」
その少女はショートボブの黒髪に猫みたいに鋭い目、華奢な身体つきだが、どこか威圧感があった。
肌は真っ白で化粧はしていないようだったが、日本人形のようだった。
制服は北山高等学校指定のモノ。
「何処の誰か知らないけど……お兄の邪魔しないで」
彼女の名前は寺之葉 暦。
流転の幼馴染であり、家族だった。
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