第22話 結界
4月7日(流転と椎葉が地獄冥界へ行く前日)
午前10時 国立北山高等学校 校門前
転法輪寺高等学校に在籍する法力を修めし4人の学生は注意深く周囲を確認し、校門前までやって来た。
かなり街中にあるこの学校は周囲の人間の目も多く、制服で他学校の人間であることが一瞬でバレる。
そのため、なるべく人の居ない時間帯に来る必要があった。
そのお陰か周囲には人一人いなかった。
加えてなるべく近隣住民に転法輪寺高等学校の学生であることがバレないように隠密行動を心掛けた。
彼らは法力を扱えるため、ある程度気配を消す術も心得ている。
細心の注意を払い、門前までやって来たのだった。
「いよいよだな」
眼鏡の男、山本が北高を前に声を出す。
「それにしても珍しいな。この通りに人がいないなんて」
眠たそうに眼をこする山田が不信感を露わにする。
「私の時間のチョイスがベストだったからじゃない?」
得意げに鼻を鳴らすミニスカートの女、木下が言う。
両手で大切そうに本を持った物静かな少女、佐々木はゆっくりと校門に近づく。
その後を三人は付いて行く。
そして佐々木が校門に触れようとしたその時。
バチッ、と強力な静電気のような音が響き、佐々木の手は弾かれてしまった。
「え?!大丈夫?」
木下が心配そうに佐々木に寄り添う。
佐々木は何が起きているのか分かっていない様子だった。
自分の手を注意深く観察した後、校門に目を向ける。
「……結界」
佐々木が口にすると山本と山田も校門に近づき、手で触れようとする。
だが、佐々木同様に弾かれてしまう。
痺れた手を抑えながら山本は口を開く。
「結界術に長けた佐々木氏が弾かれるとは、相当強力な結界師が張った結界なのだろう」
「いや、そこじゃねーだろ」
「?」
山田は冷静な目で校門を観察していた。
「いたって普通の、法力なんか使えない一般人が通う学校だぞ?結界が張られてるなんておかしい」
山本と木下は、あ、という声を漏らす。
「それにだ。法力の中でも結界術はかなりの高等技術だ。独学で学んで習得できるとは思えない」
「しかも早希まで弾かれるなんて相当な使い手じゃない?」
山田は木下の発言に頷く。
「……この結界は時間凍結と出入妨害、視覚遮断の効果が付与されてる。あとデフォルトで人払いの効果も」
「
「……てことは、かなりの手練れが関与してるってことだな」
「周囲に人が居なかったのもこの結界のせいだったのね」
佐々木は再び結界に近づく。
そして手を伸ばし、触れる。
先程はただ入ろうとした。
今回は結界を破るために手を伸ばした。
結界を解析、そして分解……。
結界は結界術者が作り上げた記号及び暗号である。
それを解読できたものはこの結界を破ることができる。
暗号は結界術者の数だけ存在して居る。
結界を張る作業は自分が創り出したオリジナルのプログラムコードを起動させる作業である。
先代の術者のコードを踏襲していたとしても、模倣品としてでも結界を張ることはできない。
自分の法力を注ぐ必要があるため、必ずオリジナルの結界が誕生する。
だが、中には有名になりすぎて、暗号の種類が周知されている術者がいる。
(この美しい数字の羅列……文字配置、
佐々木は見たことがあった。
転法輪寺高等学校の「結界術学Ⅲ」にて最も美しいとされる暗号として紹介されたもの。
「富楼那様の結界」
それを聞いた木下は興奮したように佐々木に近寄る。
「富楼那様?!富楼那様がこの結界を張ったの?」
「本当か?!佐々木氏!!」
「……ほぼ間違いないと思う」
山本はそれを聞くと興奮して声を荒げた。
「となればこの中に富楼那様がいるってことになるな」
「面白くなってきたんじゃない?!」
木下は佐々木に問いかける。
「……そうね」
富楼那は佐々木及び全国の結界術師にとって憧れの存在である。
現存する結界術師では特に三人の結界術師が最高傑作と呼ばれており、その中の一人が富楼那である。
佐々木は結界術師として富楼那に憧れを抱いているものの、一番では無かった。
その結界師は第一線からは退いてしまい、今はどこかの山奥の寺院にいると噂されている。
その人物が描く結界はこの世のものとは思えないほど美しく、そして固い。
破ることが不可能とまで言われた彼の結界は現在日本の領土を守る巨大結界の暗号にも採用されている。
だが、もちろん富楼那がすごいことは言うまでもない。
彼の本職は結界術師では無いからだ。
「この結界はあと7時間後に解除される」
「つまり7時間は待機ってことか」
山田は眠そうにあくびをする。
木下はどこか残念そうに肩を落とすと校門に背を向けた。
彼女は一度富楼那にも会ってみたいと思っていた。
「一度撤退するぞ諸君!」
山本の声に山田はおう、と反応する。
「早希、あんたは?」
同じく帰路に就こうとしていた木下は佐々木に声を掛ける。
「私はもう少しここにいる」
佐々木の発言を聞いた木下はそう、と呟いた。
「ほどほどにすんのよ?本番は7時後なんだから」
木下の忠告を聞いて佐々木は静かに頷いた。
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