第21話 宝石の呪い

 流転と椎葉の行方を追うべく奮起していた転法輪寺高等学校の部室から少し離れた場所。


 高等学校に隣接した場所には研究機関が設置されていた。


 この研究機関は隣り合う高等学校がそうであるように政府直属の組織が運営する施設であった。


 研究内容は主に信濃国にて発見された遺物や呪物の解析を行っていたが、今回は政府からの直接の依頼であった。


 それは赤い宝石に侵された高校生5人を解析し、赤い宝石が持つ呪いや効力を調査しろ、といったものだった。


 元々呪いに関して研究していた功績もあってのことだが、何より高校生たちは全員信濃国の出生だった。


 保護者に配慮するとともに、信濃国民が蒔いた種は自分たちで回収しろと言った政府からの暗に示されたメッセージでもあった。


 調査は難航していた。


 昼夜問わず高校生たちの身体や額に埋め込まれた赤い宝石が調べられたが、何も分からなかった。


 強力な呪いが込められていることは分かったのだが、それがいつ発動するのか、どのように解呪するのかは判然としなかった。


 研究員の一人、安藤あんどうあおいは腕枕を作り、机に突っ伏して眠っていた。


 何処からともなく聞こえた物音で安藤は覚醒する。


 おでこには机の上に広がっていた資料が創り出した線が出来上がっていた。


 周囲を見渡し、眼鏡を探す。


 すると机の上に置いてあったコーヒーの入った白いマグカップを落としてしまう。


「たいへんっ」


 ガラスの割れた大きな音が静かな研究室に響き渡り、同時にまだ眠りから完全に覚めていなかった脳が覚める。


 なんとか眼鏡を探し、掛けるとコーヒーによって大惨事になっている床が見えた。


 しかし、大惨事になっていたのは床だけでは無かった。


 研究室内にあった窓ガラス、机、資料、模型などが壊されているのだ。


 それに加え、昼夜問わず調査をしているはずなのに人の気配がしないのはおかしい。


 同僚が必死に働いていて、少し仮眠をすると許可をもらったときのことを思い出した。


 研究室長の佐藤さんは、嶋田さんは、加藤さんは。


 全員床に倒れこんでいた。


 研究員の性というやつか、安藤は悲鳴を上げる前に何が起きているのか冷静に対処、分析をし始めた。


 即座に三人の下に向かい、脈を確認。


 気絶しているだけで命に別状はないことを確認すると救急車の手配を済ませる。


(問題はこれですね……)


 安藤はあまりにも冷静な自分に驚いた。


 だが、こればかりはどうすることもできなかった。


 人間は自分の無力さを最大限に感じた時、何もできなくなるのだと感じた。


 カプセルの中に入っていた五人の調査対象は居なくなっていた。


 放心状態になっていた安藤の気を戻したのは、救急車のサイレンだった。




 *




 赤い宝石の呪いは発動した。


 椎葉が地獄冥界へと送った5人の不良たちは全員が赤い宝石を額に埋め込まれていた。


 そしてある時に、与えられていた一つの命令が発令されるようになっていた。


 時は4月8日。


 命令は「自分を地獄冥界へ送った人間を排除すること」だった。


 これは椎葉に該当し、4月8日は流転と椎葉が地獄冥界へ行くことに決めていた日、ゲートの完成日その日だった。


 彼らは椎葉を探した。


 手がかりは同じ高校に通っているという事実しかない。


 それに加え、その日に椎葉が学校に登校する保証が無い。


 彼らはおびき寄せることにした。


 椎葉がかつて自分たちをそのように使ったように。


 4月8日、国立北山高等学校は5人の不良高校生による襲撃を受けた。

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