第17話 王の器
富楼那はただただ困惑していた。
流転の姿が豹変し、頭には巨大な角、そして暗黒の羽。
目の前に現れたのは上位悪魔だった。
そして変化したのは姿だけではない。
「「アァ?!るてん寝ちまったなァ……まァ、いっか」」
声――人格が変わっている。
それはつまりこの悪魔が流転の適合者であることを表していた。
有り得ない。
富楼那は考えを巡らせた。
(寺之葉流転は阿修羅の適合者……悪魔の適合者に成れるはずがない……)
器。
人間には器と呼ばれる魂の入れ物が存在している。
神々の魂の形が人間の魂の入れ物と一致した場合、その器には神々が棲む。
それが適合。
選ばれし者を【適合者】と呼ぶ。
通常、器に入る神々の魂は一つだ。
一つの魂の入れ物――器には一つの魂しか入らない。
そう考えられている。
と言うよりも二つ以上存在した前例がない。
それほどまで目の前の存在は、イレギュラー。
「しかし、あなた、名前は?」
富楼那の問い掛けに笑いながら答える。
「「オレは悪魔サタン……オレの名前知ってるか?」」
「!!」
――知っているも何も。
悪魔サタン。
別名地獄冥界の支配者。
地獄の王。
全ての悪魔を統べる者。
それゆえ付けられた名前は大魔王サタン――。
(我々政府官僚及び地獄冥界総監部が手焼いている存在……しかしそれは過去の話)
「しかしッ!!貴様は我々が封印したはずだ!貴様の魂は現世に干渉できないはず!!」
「「封印ねぇ……確かに俺は長い間地獄冥界の奥底にいた……だが5年前、封印が解除された!!」
富楼那は片手で頭を押さえた。
何か、思い出したくない過去が顔を出すのを阻止しているかのように。
「”
「「まぁ呼び方なんぞどうでもいいが……地獄冥界に入獄している極悪人たちを解き放った最悪の事件……だよなァ!!」」
富楼那の頭の中には鉄仮面と赤い宝石が映し出された。
「しかし、貴様は”獄星教”に助けられたにもかかわらず、降らなかったのか?」
富楼那の質問に何をバカげたこと言ってんだと言わんばかりに口をあんぐりと開けた。
「「オレが誰かに降るわけねーだろォがァ!!オレはオレのやりてェことやんだ!!邪魔した奴は殺す。誰であろうともな」」
ニタリと笑うサタンを見つめる。
富楼那はこれからどう動くか、考えていた。
(政府官僚及び総監部が総出になって封印した悪魔の王だ……私一人で封印できるか)
「「……やる気かァ?!」」
富楼那から殺気を感じ取ったサタンは尋ねる。
「……しかし……かなり無謀であることは分かっています。ですが、ここで逃げるようならば、私は自ら死を選ぶ……それくらいの覚悟があります」
サタンもその心意気に関心したように頷いた。
「「マァ……オレはるてんの願いは聞く……それだけは叶えてやらんとな」」
「?!」
サタンの姿が消えた。
「神足ッ!!」
富楼那は上空に逃げる。
だが、それは読まれていた。
漆黒の羽で飛行したサタンは富楼那を攻撃する。
「「一撃目ェ!!!」」
闇の力で強化された肉体は、富楼那の身体に打撃を与える。
岩のように感じていた富楼那の硬さは感じなかった。
防御姿勢でサタンの打撃を止めようとしたが、あまりにも威力が高すぎる。
上空から一気に屋上の地面に落とされる。
屋上には小さなクレーターができ、土煙が舞った。
富楼那は片足をついていた。
だが、戦意は折れていない。
富楼那は手首から数珠を取り出す。
そして数珠の紐を外し、バラバラの玉を空中に散らした。
「
富楼那の周囲に散らばり、太陽の周りを惑星が周回するように玉が富楼那を囲む。
その玉が黒く、大きくなっていく。
そしてバスケットボールほどの大きさまで成長した。
その玉には強力な重力が備わっていた。
「「
だが、とサタンが言うと富楼那の背後に回り込み、一撃蹴りを入れた。
しかし、その足は消失した。
(暗黒虚構に飲まれると物質そのものが塵と化すのか)
おもしれぇ。
ニヤリとサタンが笑うと消失したはずの足が元通りになった。
その間わずか1秒であった。
そしてその足で暗黒虚構の隙間を狙い、重い一撃を与えた。
富楼那は屋上から吹き飛ばされ、空を彷徨った。
しかし、依然として富楼那の周りの衛星は回っている。
(構わねェ)
富楼那の上を取った。
「「これで終わりだァ!!」」
全体重、そして重力をも味方につけたサタンの拳が、富楼那の身体に直撃した。
富楼那は校庭に叩きつけられ、そこには大きなクレーターができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます