第14話 制裁

 流転が富楼那に感知された同時刻、椎葉サイド。


 学校に到着した瞬間スーツ姿の男に捕まっていた。


 捕まった、と言っても捕縛されたわけではない。


 椎葉の目の前に現れ、進もうとしていた道を塞がれていた。


 椎葉は高校の先生だと勘違いしていたため、なぜ自分が指導されそうになっているのかわからなかった。


 怪訝そうな眼を向ける椎葉に安倍貴之は口を開けた。


「「俺はだ」」


 その声は椎葉の周囲を歩く学生には聞こえなかった。


 天耳、若しくは悪魔との契約者のみ聞こえる声。


 悪魔と契約した者は耳の構造が強制的に変えられる。


 何故なら悪魔との意思疎通、コミュニケーションが通常の耳だとできないからだ。


 悪魔の声を聞き取るためにもある程度人ならざる者からの声には慣れていなければならない。


 天耳、副天耳とは明確に区別される、「悪魔聴あくまちょう」と呼ばれるものである。


 そして安倍の声は悪魔の血に深く刻まれていた。


 その声は。


 かつて人間界に蔓延っていた悪魔族を壊滅させ、現世から追放し、地獄冥界へ送った一族。


 陰陽道おんみょどう 安倍家あべけ


 こいつらの声は忘れるわけが無かった。


 何故なら一族の敵であり、元凶だからだ。


 流石の椎葉も陰陽師は知っていた。


 悪魔の敵であり、ミカエルの邪魔をする者。


 だが、椎葉もミカエルでさえ震えてはいなかった。


「「お前ら、いい度胸してんな。普通俺を視た悪魔は逃げ回るか怒り狂うかどっちかなんだけどな」」


 椎葉とミカエルは胸を張って安倍貴之を睨みつけていた。


「「場所を変えよう。ここじゃあ目立ちすぎる」」


 安倍貴之はくるりと背を向け、校舎裏へと向かった。


 椎葉は敵が隙を見せたのに動けなかった。


 攻撃のチャンスだった。


 しかし、攻撃は全て見切られているような気がした。


 ピキッ。


 椎葉の中の何かにひびが入った。


 それは自尊心だった。


 椎葉は悪魔らしい笑みを浮かべた。


「ミカエル。アイツ、かなり強いよな?」


 椎葉は標的から目を背けることなく体内に潜むミカエルに尋ねる。


「「かなりな。俺らの何倍も強い」」


「面白い」


 椎葉は止めていた足を動かし始めた。


 向かうは強大な敵だ。


「俺が負けるはずがない」


 椎葉は自身満々に笑うと校舎裏に急いだ。


「「覚悟は決まったようだな」」


 校舎裏の空き地には安倍貴之が仁王立ちして待っていた。


「俺が勝つ」


 安倍貴之は呆れたような顔をした。


「いいか?坊ちゃん。お前は犯罪者なんだ。悪魔と契約するってことはこの世の法に触れてんだ。これから起こるのは戦いとかバトルとかそんなんじゃねぇ。

一方的なだ」


「構わない」


 椎葉は臨戦態勢を取る。


「俺が目的を果たすためなら法でもなんでも捻じ曲げてやる」


 安倍貴之は椎葉の言葉を聞いて溜息を吐く。


「そういう奴がこの世を乱すんだよ」


 安倍貴之の姿が消えた。


 気配もない。


 椎葉は辺りを見渡す。


 だが、どこにも安倍貴之の影はない。





「――8時45分。執行対象を斬殺」


 何処ともなく現れた安倍貴之は片手に刀を持っていた。


 確認できたのはそれだけだ。


 あとは地面が逆転していく様。


 椎葉の首は飛ばされた。


 キンッ。


 安倍貴之の刀を鞘に納める音が響く。


 地面には椎葉の頭が転がっていた。

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