第11話 奮起


「俺がミカエルと契約を結んだのは2年前のことだ」

 椎葉は淡々と話し始めた。


 流転は初めて椎葉に話しかけられた時のことを思い出した。


 一番最初、流転に話しかけた時は穏やかな口調だった。


 しかし、流転を誘うためか、わからないが人が変わったように口調が変わった。


 それこそ言葉遣いが凶暴になり、悪意が含まれた口調だ。


 今の椎葉からはそんな雰囲気を全くと言っていいほど感じない。


(悪魔の精神干渉による影響か?)


 流転は考察したが、依然として判然としない。


 加えてどこか自分にも引っかかることがあった。


「…俺はこの世界に絶望していた。もう何もかもがどうでもよくなった。そんな時にミカエルに遭った。同じ目的を持っていた俺たちは互いに協力し合うことを決め、契約した」


「…その目的は?」


 流転が聞くと椎葉は流転の目を見て言った。


だ」


 隣でミカエルが頷いた。


 流転は椎葉の目を見てどれだけ復讐に燃えているか、分かった。


 この目は、本気だ。


「「その相手が鉄仮面に赤い宝石の男だ」」


 ミカエルは歯を食いしばりながら言った。


 椎葉の話を聞いて流転は思うところがあった。


 それは椎葉とミカエルの目的が同じであったということだ。


 椎葉悠斗は人間であり、ミカエルは悪魔である。


 人間は現世に生き、悪魔は地獄冥界に棲んでいる。


 それで目的が同じと言うことは、両者が復讐を望む相手は。


「その男の正体は悪魔なのか?」


 流転の問いに椎葉は驚いたような表情を見せた。


「…いや、悪魔ではないと思う。現世にいる俺の生活に干渉してきたからな」


「つまりは椎葉。お前と同じ」


「ああ、悪魔と契約した人間ってことになる」


 二人の会話を聞いていたミカエルは追加で情報を開示した。


「「オレ様の能力はってもんだ。俺たちが喧嘩吹っ掛けて不良を掃除してたのは不良を地獄冥界に送り、それで奴を誘き出そうとしてたってわけ」」


「え」


 流転は思わず声が漏れてしまった。


「送った不良たちはどうなってんだよ!」


 焦る流転を横目になにをそんな慌ててるんだ、と平静な顔を浮かべる椎葉。


 重要な事態に気付いていない様子の悪魔ミカエル。


「不良なんてどうなってもいいだろ」


「よくねーよ!!彼らだって真っ当に生きてるかもしれねーじゃん!」


「「マァ、不良の道進んだ時点で真っ当ではねーがな」」


 だめだ、こいつら。


 この世界の常識がまるでない。


「いいか?!地獄冥界はな、罪を犯したが裁かれ、罰を受ける場所だ!生者を送っていいわけねーだろ!!」


「そうじゃな」


 突然後方から聞こえた声に全員驚いた。


 そこに立っていたのは流転の師匠だった。


「師匠ッ!」


「流転。まさかお前が二日で帰ってくるとはな。帰って来たのなら顔くらい見せんか」


 椎葉とミカエルは身構える。


 目の前には明らかに格上の法力使い。


 勝負になったら勝ち目はない。


「お主らが最近話題になっとる悪魔憑きか。まさか流転が初めて連れてきたが悪魔憑きとは」


「「友達じゃねーよ!!」」


 流転と椎葉の声がシンクロした。


 お師匠様はそうか、そうか、と満足そうに頷き、話を戻した。


「ところで。先程話していた地獄冥界に送った生者についてだが、既に保護されたそうだ」


「そうか、よかった」


 流転がほっとしていると


「じゃが、一つ気がかりなことがあった」


 お師匠様は声のトーンを下げた。


「君たちが送った不良全員の額に赤い宝石が埋め込まれていたそうだ」


「「「!?」」」


 赤い宝石。


「お主らの行動はあながち間違いではなかったのかもしれぬぞ…かなり強引な手だが、奴への手がかりを掴むことができた」


「つまり…」


 流転が椎葉の顔を見る。


「ああ、やはり地獄冥界に奴はいる…!!」


 復讐心に燃える椎葉。


 ようやく掴んだ手がかり。


 だが、あまりにも上手くいきすぎている。


 そんな分かり易い手を奴は使うのか?


 流転は疑問に思ったが、兎にも角にも地獄冥界に行くしかない。


「ミカエル、俺を地獄冥界に送れるか?」


「お前だけではない、俺もだミカエル」


 二人の人間が、巨大な悪に立ち向かうために奮起した。

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