第10話 目的


「狙われてるってことは…」


 ≪――近づいてきているのはほぼ確実に帝釈天の配下だろう――≫


 金髪が悪魔を顕現させたことで法力が扱える人間には居場所が分かってしまった。


 加えてこの結界内に悪魔が顕現することはあり得ないと考えられている。


 法力の使えない一般人を巻き込む大惨事になる可能性があるからだ。


 それを未然に防ぐために貼られた結界は悪魔という巨悪を跳ね除け、立ち入ることを禁止している。


 だが、突如として結界内に現れた悪魔の反応。


 帝釈天の配下が近づいてくることは間違いないが、この国の治安を守る治安維持部隊や悪魔を祓う専門部隊が出撃した可能性も大いにある。


 それだけ悪魔というものが現世ではタブー視されている。


 そのタブーが目の前に現れた。


 しかも自身を排除するために向かっている影には気付いていないようだった。


 臨戦態勢は依然として解かない。


 となれば、強行手段を取るしかない。


三悪之印さんあくのいんッ!!」


 流転は印を結び、悪魔と金髪目掛けて叫んだ。


 両者の足元には光る漢字の羅列が浮かび上がり、それが円を形成し、二体の身体を縛った。


「「なにをするッ!!」」


 身体を拘束され、苦しそうに藻掻く。


 痛覚に働きかける作用は今回使用していない。


 その代わり発動時間の短縮と「縛り」の強化に当てた。


「大人しくしとけよ…」


 流転は身動きが取れない悪魔のもとに駆け寄り、また印を結んだ。


「時空に巻き込まれて


 流転の覇気を含んだ言葉に悪魔は肝を冷やした。


 何が起こるのか、今から自分は何をされるのか。


 また…のか。


 次の瞬間、流転と悪魔、金髪は移動した。


 悪魔と金髪は気付けば山奥の古寺にいた。


「し……!」


 悪魔は口をあんぐりと開け、自分に起こっている事実確認をした。


 手を動かし、異常がないことを確認する。


「ゆうと…大丈夫か?」


 心配そうに金髪イケメンに尋ねる悪魔。


 その言葉に裏表は無さそうだった。


 ゆうと、と呼ばれる金髪イケメンは茫然とし、驚いていた。


 なにが起きたのか分からずただ立ち尽くすことしかできていない、そんな印象だった。


「今のは何だ?」


 金髪イケメンは悪魔に質問する。


「「い、今のは六神通の一つ…持ってるだけで神レベルの神の境地…通称「神境じんきょう」の第二項…「神足しんそく」だ…自分の思い描いた場所へ一瞬で移動することができる神業…」」


「そんなすげーもんじゃねーよ」


 流転の声に肩を震わす悪魔。


 相当効果があったようだ。


「俺のは設定したポイントのみに移動できる「副神足ふくしんそく」だ。そんでここは俺の故郷な」


 流転が二体を移動させた場所はかつての学び舎、お師匠様のいるお寺だった。


「俺の師匠は界隈では結構有名な結界師でな。ここにいれば誰であろうと探知されることはない」


「探知…?ってなんだ?」


 金髪が何も知らない様子を見せたため、少々イラついた流転は近づき、威圧する。


「お前が現世で悪魔を出しやがったからそれに気づいた奴らがお前を探してたんだよ!お前、あの場所にあのままいたら殺されてたぞ」


「は、はぁ?!いつ俺がそれを頼んだ?俺がその気になればな…」


 金髪の発言を止めたのは以外にも悪魔だった。


 金髪の口を押え、もう喋るな、と言わんばかりの態度を取った。


「な、なにすんだよ」


「「…助けてくれたこと、感謝する…」」


 悪魔は流転に向かって頭を下げた。


 流転は驚いた。


 ここまで常識のある奴だとは思っていなかったからだ。


「お、お前ッ!!何してんだ!」


 金髪は悪魔が不良の流転に頭を下げたことに怒り、叫んだ。


「「いいか、ゆうと。今、」」


 ゆうとと呼ばれる金髪は はっとした。


「「俺は人に頭を下げることは大嫌いだが、現世で死ぬ方がもっと嫌だ…それはゆうとも同じだろう?」」


 ゆうとは何も喋らなくなった。


「「俺たちが契約したのはこんなくだらないところで死ぬためか?俺たちのを達成するためには俺たちが立ち止まるわけにはいかないんだ」」


「…俺が悪かったよ」


 悪魔に諭され、頭を掻くゆうと。


 その表情からは自分のやるせなさを嘆く様子が見えた。


「…その…助かったよ」


「ま、今度からは場所を考えるんだな」


「お前は…一体何者なんだ?」


「俺は寺之葉 流転」


 お前は?と流転は聞き返した。


「俺は椎葉しいば 悠斗ゆうと。こいつは悪魔のミカエル」


「「ミカちゃんって呼んでくれてもいいぜ」」


 ケケケと笑う悪魔ミカエル。


「俺たちは同じ目的を達成するために契約した」


「その目的はお前が不良に片っ端から喧嘩挑むこととなんか関係あんのか?」


 悪魔のミカエルと椎葉は頷く。


「「俺たちはある男を追っている」」


「俺の家族を殺した…赤い宝石を付けた鉄仮面の男だ」


 椎葉の顔が険しくなる。


 だが、同じように流転の表情も硬いものになった。


 赤い宝石、鉄仮面。


 忘れもしない。


 あの日、家族を殺され、そして清々と決別することになったあの日を。


 そしてあの密度の濃い殺気。


「…どうした?」


 椎葉に心配されるほど流転の表情は怒りに満ちていた。


 まるでその顔は修羅の様だった。


「詳しく聞かせてくれ」


 椎葉とミカエルは事の発端から話しはじめた。




 *




 時は数分前にさかのぼる。


 流転が「副神足」を使用した数秒後に彼らは到着していた。


 阿修羅を追う帝釈党党員および悪魔迎撃部隊。


 帝釈党員を率いるのが日本国政府官僚であり、高僧―――富楼那ふるな


 悪魔迎撃部隊―――通称「陰陽師おんみょうじ」。


 その信濃国総統が安倍貴之あべのたかゆきという男である。


「しかし、あなたたちとはできれば行動を共にしたくなかったのですが…」


「それは同感だ」


 坊主頭の富楼那は紅の袈裟けさを身に着け、体中のあらゆる首に数珠が巻かれていた。


 悪魔祓いの陰陽師、阿部貴之は黒ネクタイに黒スーツであった。


 整えられていないぼさぼさの髪の毛に手には煙草たばこ


 目の下には大きな隈があった。


「しかし、やはり飛んで行ってしまったようですね」


「だが微小に悪魔反応と法力の痕跡が残っている」


 安倍貴之は地面を触り、先程まで椎葉が立っていた場所を調べる。


 富楼那は逆に流転が立っていた場所を俯瞰して見ていた。


「下級の悪魔か…」


「しかし阿修羅の反応がありますね」


 二人は同時に顔を上げ、向き合う。


「しかし間違いありません」


「この学校には阿修羅と悪魔がいる」


 二人のエキスパートは流転と椎葉を探すため、この学校にターゲットを絞った。




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