第8話 違和感


「今日も何も得られなかったな」


 終業を知らせるチャイムと同時に校舎から外に出た流転は呟いた。


 彼がこの高等学校に入学した理由は先述したとおり、「強い奴と出会えること」が挙げられる。


 だが、他にも自分の持つ力を高等教育特有の教育で伸ばすことも含まれていた。


 だが、入学してから二日経つが、お師匠様に教わったような力についての話が一切出てこない。


 それはまだ二日目だからであって、これから学んでいくのかもしれないが、なにせこの高等学校に通う人間からは何も感じない。


 流転が習得したい、伸ばしたい、得たいと考えている力とは「法力」のことである。


「法力」とはつまり「神通力じんつうりき」のことである。


 詳しい内容については後述するが、「六神通ろくじんつう」と呼ばれる、神の力をその身に宿すことを目標としていた。


「六神通」というだけあって六つの力が内在しているのだが、それは話が進むにつれて明らかになっていくだろう。


 兎にも角にも、流転はその力の習得、学習ができていない現状に不信感と疑念を抱くようになった。


 不信感と言えばもう一つ。


 他の学生からは何も感じない、という点だ。


 ある程度「法力」を習得している人間はオーラのようなものを放出している。


 それは身体の奥深くから溢れ出ている「法力」の源泉なのだが、それを一切感じないのだ。


 流転はお師匠様から厳しくオーラの収め方を習っていたため、ほぼ完璧に収納ができている。


 先程話題に出た、奴らに察知されないように阿修羅の力はもちろん「法力」も使ってはいけない、という話はこれに直結する。


 つまりは、「法力」をある程度習得したものの、それを抑える術を持っていなかった場合、留まることを知らず溢れ出る。


 そのオーラの動きは同じ「法力」を習得している人間には丸見えである。


 それに加え、上級者になってくるとそのオーラだけで相手の持つ神通力や能力を見極めることができる。


 そのため、「法力」というものはなるべく外に漏らさない方が良いのだ。


 その事実を踏まえたうえで話をすると、この高等学校にいる人間は全員「法力」を完璧にコントロールすることができているということになる。


 そんなことがありえるのだろうか。


 流転は休みの時間や昼食の時間を使って隈なく学校を探索した。


 しかし、全員が全員法力を持っているかどうか判別できなかった。


 流転が一番漏れているくらいだった。


(そんなことがありえるのか…?)


 流転はそこに違和感を覚えながら、静かに憤りを感じた。


 自分よりも優れた人間が居ることに。


 そして誰も反応を示さないことに。


 否、反応を示した人間が一人だけいた。


 流転は「法力」の放出によって背中が痒くなるほどの違和感を不特定多数の人間に与え続けたのだが、一人を除く全ての人間は反応しなかった。


 その反応した人間も共鳴したわけではない。


 流転に向けられたのは明確な「食欲」だった。


 ≪――気になるか?――≫


 突然阿修羅が口を開いた。


 今日も一日中一切干渉してこなかったはずだが。


「なにか知っているのか?」


 流転が尋ねると阿修羅は笑いながら言った。


 ≪――我らが「法力」を使いし時、それを喰らう種族はただ一つよ――≫


 法力を好み、人間が放出した法力を喰らうことで生命を維持する種族。


 ≪――”悪魔あくま”だ――≫


 その時、流転の背後から何者かが忍び寄っていた。


「やぁ、流転クン」


 突然話しかけれた流転だったが、阿修羅にいつも驚かされているため、大して驚かなかった。


 そこの立っていたのは金髪サラサラヘアの整った顔立ちをしたスタイル抜群の―――イケメンだった。


 だが、その顔からは似つかない不敵な笑みを浮かべ、両手をポケットに突っ込んでいた。


「君の悪名は聞いているよ…ちょっと俺に付き合ってくれない?」


「ああ?誰だテメー、」


 流転は威嚇の意味を込めた言葉を続けようとしたが、昨夜、暦に言われた言葉を思い出し、留まった。


((―だからまずは知らなきゃ。誰だって初めは知らないんだから))


 しかし、思わぬ猛追が来た。


「これは命令だ、不良。に付いて来い、


 ピキッ。


 我慢の限界に到達した。


「上等だよ…スカシ野郎が…みっちり付き合ってやるから覚悟しとけな」


 満足したように笑うと金髪は踵を返し、校舎裏へと歩いて行った。


 当然流転もついて行く。


 ≪――流転!――≫


「うるっせーな分かってるよ」


 また阿修羅から喧嘩はするな、人を傷つけるなと言われると思った。


 だが、それは違った。


 ≪――アイツが””だ――≫





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