第7話 因縁

 

 バスが停車し、学生が降りていく。


 流転も同じようにバスを降り、高校へ向かった。


 すると校門の前に何やら人だかりができていることに気付いた。


 一人の演説者が学生や地域住民に向けて訴えかけていた。


 選挙活動か、流転には分からなかったが、スルーしようとした。


 するとその時、一人の男が声を掛けてきた。


 スーツに身を包み、ツリ目でマッシュルームヘアーのその男は流転よりも背が高く、ひょろりとした体格だった。


 175センチの流転も背が低いわけではないが、その男は180センチは超えているだろうと感じた。


「突然ごめんね!僕は帝釈党たいしゃくとうの組員なんだけど、君、政治に興味ある?」


 帝釈党たいしゃくとう


 ”帝釈天たいしゃくてん”をリーダーとし、この国を治める与党第一派である。



 ≪――無視しろ――≫



 珍しく干渉してきた阿修羅。


 その声には多少の緊迫感を内包していた。


 基本的に阿修羅は流転の生活に干渉してこない。


 というより、時々阿修羅は流転の中から居なくなっているように感じる。


 通信が切れるように、つながりが途切れるような感覚に時々なるのだ。


 その時に阿修羅が何をしているのかは分からない。


 そもそもなぜ阿修羅が流転の体の中に、精神に干渉してくるようになったのかは分かっていない。


 ≪――何も喋るな、歩みを止めるな――≫


 阿修羅からの命令に流転は従った。


 少し癪な気がしたが、一応これでも仏法の神だ。


 自分よりも当然博識であることは間違いないし、その上神にしか察知できない事象も存在して居るだろう。


 実際、流転もこの男に違和感を感じた。


 だから阿修羅に従ったというよりも自分の直感を信じたのだ、と自身を正当化した。


 流転はそのまま歩き続け、この男を完全に無視した。


 マッシュルームヘアーの男は追いかけようとしたが、過度な勧誘は控えるように指示されているのか、追ってこなくなった。


 代わりに他の学生に声を掛けに言っていた。


 距離を取ったあとに阿修羅に質問した。


「なにかあったのか?」


 阿修羅は一瞬発言を躊躇ったが、答えた。


 ≪――奴らの目的は俺だ――≫


「…どういうことだ?」


 眉を顰め、流転は聞く。


 勿論あまり口は動かさず、声も最小限に抑えている。


 ≪――俺の本体は今現在【地獄冥界じごくめいかい】に収監されていることは前に話したな?――≫


 流転は頷く。


 ≪――俺がお前の精神に干渉しているのは俺の魂の一部分を流転、お前に移動させているからだ――だが、最近になって俺の魂の欠損が上層部にバレた――その結果、全国にいる奴の党員に俺の魂を捜索する命令が下されたのだろう――≫


 流転は過去に阿修羅から教えられた話を思い出す。


 彼の昔、帝釈天がこの国を治めるようになったよりも遥か前。


 天上の地で帝釈天と阿修羅は争った。


 帝釈天の弱肉強食的な思想を阿修羅は嫌ったからだ。


 結果は阿修羅の敗北。


 帝釈天は日本国のリーダーの器に魂を宿し、阿修羅はこの国の果てに存在する地獄、通称【地獄冥界】に入獄した。


 元々強大な力を有していた帝釈天に盾突く馬鹿は阿修羅しかおらず、阿修羅のように帝釈天の思想に不信感を抱く者がいたとしても、反逆するような同胞はいなかった。


 入獄後、彼の持つ三本の名刀は封印され、彼の身体は魂を入れるだけの抜け殻と化した。


 そこから長い年月をかけ、阿修羅は自己の魂を操作することに成功し、現世にいる【適合者】を探した。


 その人物こそが流転だったのだ。


「地獄冥界にいる阿修羅の身体はどうなっているんだ?」


 ≪――当然探りを入れられた――だが、本体自体にそこまで意味はない――我々仏法の神にとって最も重要なものは何よりも”魂”だからな――≫


「つまり今俺が阿修羅の力を使えば」


 ≪間違いなく奴らが押し寄せ、お前は殺される――同時に俺も死ぬ――≫


 変に奴らに察知されないように阿修羅の力はもちろん「法力」も使ってはいけないらしい。


 とんだ縛りプレイが始まった。


 唯一の救いとすれば、彼が入学した学校を間違えたことで「法力」を使う授業がないことだ。




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