第6話 交錯

 ≪―お前を少し誤解していたかもしれないな―≫


 阿修羅があまりにもらしくないことを言うものだから流転は驚いた。


 ≪―俺がお前に分かって欲しかったのはな流転、強さに執着することが正義じゃないってことだ。強くなることを否定してはいない、だが、その強さは自分の承認欲求を満たすためや誰かを貶めるために使うものではない。全て弱者を守るためにあるのだ―≫


「それはわかってるつもりだ」


 流転の即答に阿修羅はいいや、と答える。


 ≪―お前が他人からチカラを振りかざされたときに感情が高ぶってしまうのは強さという物に執着しているからだ。お前の中では他人に力を見せつけられた時、その相手と自分を比較し、強弱の判断がつかない場合は力づくで強さを証明し、優位性を保とうとする。それがお前を支配していた思考であり、お前が嫌われた原因だ―≫


 流転は何も言い返さず、そんなことくらいわかってらい、と返した。


 ≪―だがな、流転。お前の今の行動を見て社会はお前を悪と見なすかもしれないが、お前の行動によって少なくとも何人かの弱き者が救われたのだ、誇るべきことだと俺は思う―≫


「違えよ」


 流転は即座に訂正した。


「その理論で行くと俺は結局強さに執着したに過ぎない。あの時は感情が高ぶっていた上に奴らを倒す事しか脳には無かった。そう考えると弱者を助けるという考えが無いことが分かるだろ?」


 自虐のように言うと阿修羅は


 ≪―今はそう思うだけでもいい―≫


 少し喜んだ様子で声は途切れた。


 不良二人に案内された空き地には動かない不良二体が転がっていた。





 停留所でバスを五分ほど待っていると普段はこの時間帯に利用客が居ないのか、バスが驚いたように急に方向を変えて流転の下にやって来た。


 バスに乗り込むと周囲の視線が痛かったが、特に痛い視線があった。


 そこには汚物でも見るような目つきで流転のことも睨みつける暦が立っていた。


 その目からはなんでお前がここにいる?と訴えているのがわかった。


 流転は声を掛けようとしたが、周囲の目を気にして止め、暦から目を反らせた。


 暦の周りには同学年の女子が二人いた。


 やはり暦には友達ができたようだ。


「ねぇ、あの男、暦ちゃんのことめっちゃ見てたよ」


「えーまじ?暦ちゃん大丈夫?」


「…う、うん」


 俯きながら友達からの心配に優しく頷く。


「昨日ナンパしてきた不良二人と時間ずらしてバス乗ったってのに…暦ちゃんは災難ね」


「え、あ、う、うん…」


 あたふたと動揺した様子の暦、心なしか顔が赤い。


 そんな会話など耳から入ってこないよう遮断した流転は、目を瞑り、なるべく目立たないように学校まで向かうことにした。




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