第4話 霊能力
細かな事情は抜きとして、この悪霊は寺乃葉家で雇うことになった。
生前の名を
凛子はこの世に未練を残した悪霊という立場だが、特別この部屋に思い入れが強いとかこの部屋で自殺したとかそんな重い話は無いようで、昔住んでいたことがあって一番住みやすかったからだと言う。
姿を現した幽霊は一般の人間でも視認することは可能で、凛子自身もこの世界の人間に干渉することができるようになった。
だが、悪いように現世の人間に干渉すると、流転や暦よりも恐ろしい悪霊を祓うことを生業とする「
流転と暦は悪霊に対し、専門であるというのは、あくまで死霊や悪霊に立ち会い、祓った経験があり、ある程度の知識を持ち合わせているため、専門内であるという意味であって、彼らは祓人ではない。
悪霊と言うのは生前執着していたものに関わる力を一般的に持ち合わせている。
首吊り自殺であれば使用された縄に執着し、縄を変幻自在に操る力を持つ悪霊が一般的であるが、他にもその執着心から派生する力は多岐に渡る。
凛子の能力は「糸」だった。
生前よく編み物をしていたから糸というものに執着しているそうだ。
伸縮自在、変幻自在の糸はどこからでも取り出すことが可能で、意外と使い勝手が良い。
料理をする際に糸を使ってもらったところ、物の数秒で野菜や肉は切れ、それだけではなく料理の手際がとてもよかった。
生前身についていた料理スキルに糸と言う能力が合わさることで、料理スピードが加速したようだ。
「味も美味い…」
凛子の料理を一口食べた流転は思わず言った。
「毒は入っていないようね」
暦も凛子が作った朝食を口に運ぶ。
「そ、そんなもの、入れないですよ~」
はは、と苦笑いを作る凛子。
この様子だと以前に盛った経験はあるようだ。
「…ま、毒くらいなら耐性あるし大丈夫」
「え」
「少しピリッとするのがアクセントになるんだよな」
「ええええーー!!」
二人の変人さに今更ながら驚く幽霊。
未だかつて一瞬で姿がバレ、祓われそうになり、毒に耐性のある人間と会う経験など無いのだろう。
凛子は盾突くことは早々に諦めた、この兄妹には何をしても敵わないと理解したのだ。
だったら自身の身を案じ、徹底的に従うことで祓われずに自身の念願を果たせるのではないかというのが凛子の思惑だった。
「お兄、そろそろ時間」
「行くか」
「片付けはやっておきますので遅刻しないよういってらっしゃいませ!」
凛子が笑顔で玄関まで送ってくれる。
それに加え暦もだ。
「暦はまだ行かないのか?」
てっきり一緒に行くものだと思っていた。
だが、暦は冷たい一言を言い放つ。
「嫌われ者と一緒に歩いてたら私まで嫌われるでしょ」
「…」
辛辣、かつ真実。
流転はハートにかなりのダメージを負った。
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