第5話

 店前に駐車させると彼女はいきなりサイドカーから飛び下りた。店の引戸を少し乱暴に開けながら母親を呼んでいた。母親らしき中年の女性が店の奥から「あらまあ」と少し驚いた様子で現れた。優子は岩本と母親の間に立ち「このおじさんに乗せてきてもらったのよ」と母親にお礼を促した。岩本はついでですからと答え手を横に振った。

 岩本はハーレーのライダーたちに「ここでお昼にしないか」と誘った「いいすね」と誰かが答えるとそれぞれがテーブルにむかった。

 それぞれが注文をしてそれぞれの時間を過ごしていると、1台の黒いジープが滑り込んできた。店の奥に座っていた優子がすぐさま反応してジープに向かって飛び出していった。岩本も同様に反応して優子の動きを追った。裕子がジープのドアを開け何やら話をしている。岩本は裕子の弾んでいる様子を見て彼氏と確信した。一瞬、これが娘の父親感なのかなと妙な気持ちにもなった。優子は彼氏の腕に絡みつきながら岩本の前にやってきて「このおじさんに乗せてきてもらったの」と彼氏の反応をうかがうように少し甘えたような声で言った。「どうも おせわになりました」長い髪を後ろにまとめたた長身の彼は深々と頭を下げた。岩本は彼の所作に少し好感が持てて寛容な態度で「いや、こちらこそ楽しかったよ」と微笑み返した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る