第2話

  30分位たった。岩本は勘定を済ませると,サイドカーに向かった。

サイドカーに近ずくと若い女性がサイドカーをきょろきょろと眺めていた

「おじさん、この車なんていうの」好奇の目をくりくりさせながら話かけてきた、「サイドカーというんだよ、バイクの横にカーを付けてあるんだ、」「へー、私始めてみるよ」「まあ、たいていの人はそういうよ」「おじさんこれに乗せてくれない、」彼女は唐突に、無防備な声を発した、岩本は一瞬、啞然としたが彼女はヒッチハイカーであるといってきた、彼女はこの店で待っていれば日光方面に行くドライバーに会えるだろうと思っていた、彼女の話では実家が日光杉並木のところで、すぐにでも帰りたいという、事情があって1円も持たずに家を飛び出したらしい、住まいはこの近くだという、岩本は少し戸惑ったが、彼女に名前と年令,職業を聞いた、「木元優子22歳同棲中」と答えた、岩本は「なるほど、」と意味不明な相づちで頷いた、乗りかたのマナーを少し教えてヘルメットを渡した、彼女は指でショートヘアをかきあげピアスを気にしながらゆっくりとヘルメットを被った、今日の彼女のいでたちはサイドカーを狙っていたようなファッションだ、カーキ色のシャツにモスグリーンのコットンパンツ、足元はダナーのワークブーツで決めていた。

 彼女がカーに収まると岩本はセルを回した、サイドカーはスムーズなエンジン音で走り出した、道路が直線なので少しスロットルを開けた、体が後ろに引っ張られ、水平対向エンジンが素直なレスポンスを感じさせてくれた。まもなく右にカーブするコーナーに差し掛かった、岩本は体重を右にかけカーをすこし浮かせぎみにコーナーを抜けた「キャー」彼女はうれしそうな声を発した、さらにカーを少し乱暴気味にたてなおすと、優子はディズニーランドののりになっていた。

 しばらくは直線道路が続き、岩本は制限速度内を流れるように走らせた。

心地よい風が首元をかすめリズミカルなエンジン音が後ろへ飛んでいく、

岩本は風と音に酔いしれて一瞬眠気に襲われた、いかん、適当なところで休まなければ、やがて利根川の橋にかかった、川風が巻くように襲い掛かり、緊張を迫られた。岩本はハンドルを握り直しバランスを崩さないように注意しながら橋を抜けた。県境に差し掛かった、茨城県の標識が目に入る、下には古河市と書いてある、直線道路が町に向かって吸いこまれるように続いていた。町の入り口でコンビニの看板が目に入った。岩本は減速をしてコンビニの駐車場に滑り込んだ。3台のハーレーが並列駐車をしていた。隣が空いていた、岩本はハーレーと少し距離をとって駐車をした。ヘルメットを脱ぎながら「ちょっとトイレに行ってくる」と優子に言った。「私も後で行く」と言いながら彼女もヘルメットを脱いだ。

 岩本が店から出てくると黒い皮製のつなぎを着た3人の男たちがサイドカーの回りに立っていた。男たちはハーレー乗りの男達で30代くらいの意外と落ち着いた連中だった。

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