第107話 状況は?

 ぷるる。ぷるる。


 紅さんが剣さんに電話をかける。


 二回のコールが鳴ったあと、電話が繋がった。


『もしもし。紅か?』


「京都ぶりね爺。東京で発生したゲートの件は聞いてるわ。いま、状況どうなってんの?」


『一言で言えば沈黙だな。ゲートは現れこそしたが、まだひとつたりとも開いていない。そちらに心当たりはないか?』


「ないわね。しいて言うなら、クロがシロのことを——もしくはあたしたちのことを待っているんじゃないかって言ってたわ。もちろん確証はない」


 それは先ほどのクロの言葉だった。


 紅さんも確証はないと言ってるが、恐らく胸中では俺と同じことを考えている。


 ——その可能性が高い、と。


『ふむ……確かにお前たちのことを待っているなら理由としてはありえる話だな。シロくんは君主の一部を盗んだ裏切り者。敵がシロくんを求めているなら、直にゲートが開くか』


「あくまで可能性の域を出ないわ。それより、大きなゲートは発生したの?」


『発生している』


 剣さんは間髪入れずに即答した。


 紅さんの雰囲気が変わる。ぴりっと、やや緊迫した状態だ。


「……どれくらい?」


『恐らくS級ゲート並みだ』


「ッ」


 最悪の答えが返ってきた。


 日本どころか世界中で多大な犠牲者を生み出した災害のようなゲート。それらは全てS級ゲートと呼ばれるようになった。


 俺たちはすでに二つのS級ゲートを攻略している。


 千葉県の〝閻魔殿〟。


 京都の〝失楽園〟。


 どちらも待ち受けていた敵は強大な力を持っていた。


 俺がパワーアップしたとはいえ、そんな規模のゲートがいきなり出現するなんてあまり考えたくない。


 だが、事実として剣さんは告げた。ほぼ同規模のゲートが出現したと。


 であれば、他のゲートはともかく、その巨大ゲートの中からは恐ろしく強いモンスターが現れるはず。


 下手すると出会いたくない君主が出てくるパターンもありえた。


「こっちの戦力は?」


『私を含めた冒険者協会と、お前たちを含めた天照ギルド。さらに京都から花之宮たち精鋭部隊が数名。数時間ほど前に、夜会ギルドの轟も参加を表明した。戦力だけで言えば閻魔殿を攻略したときに近いな』


「戦力だけは充分ってことね」


『予想では、な。これほどのゲートが一箇所に、それも同時に出現したケースはいままでにない。どれほど苛烈な戦いになるかも予想できない』


「平気よ。こっちにはパワーアップした庵もいる。敵からしたらそれだって予想外の出来事だわ。それより非難状況は?」


『ほとんど完了している。確認作業中ではあるが、現在の東京都からはほとんど人がいなくなっている。こんな状況だ、今回ばかりはお前には暴れてもらうかもしれないな』


「上等」


 ぎちぎち、と紅さんが握り締めるスマホが嫌な音を立てた。


 次いで、紅さん自身が好戦的な笑みを浮かべる。まさにやる気まんまんって感じだ。




「任せなさい。あたしが全部灰にしてあげるわ」




 ▼△▼




 ピッ。


 剣さんとの電話が終わる。


 紅さんは踵を返して振り返った。


「いまの話、聞いてたわね」


「はい」


「これからかなり大規模な戦闘が始まるわ。覚悟はいいかしら?」


「もちろん。車の中でも休めましたし、体力は充分ですよ」


「頼りになるわね。いまは他のメンバーはほとんど出払ってるらしいから、装備を整えてあたしたちも現場に行くわよ。とりあえず、一番デカいっていうゲートのほうにね」


「了解です」


 僕たちはそれぞれの部屋に向かった。


 いまでは、天照ギルドに僕専用の部屋まである。


 紅さん曰く、幹部全員分用意してるらしい。だから僕だけが特別なわけではないが、こういうときには便利だ。


 部屋に荷物を置いて、服を着替えて外へ出る。


 少しすると、遅れて紅さんもやってきた。


「車を手配したわ。すぐに来る。現場に着いたら——最悪の想定もしておきなさいよ?」


 最悪の想定。それはきっと、ゲートが開くことだろう。


 最初から戦闘は考慮している。


 俺は頷き、やってきた車に紅さんとシロとともに乗った。クロは姿を消して近くで待機している。




 ▼△▼




 がらがらになった道路を車が走る。


 緊急事態ゆえに信号すら機能していない。いまこの街にいるのは、ほぼ冒険者だけだ。


 それゆえに時間をかけずに目的地に到着する。


 空を覆いつくすほどの巨大ゲートがそこにはあった。その下に、多くの冒険者が待機している。


 紅さんが到着すると、その場にいたほぼ全ての冒険者たちが安堵する。未知のゲートに対して抱いていた不安が、特級冒険者の存在感により薄まったのだろう。


 だが、逆に紅さんは、


「大きいわね……」


 空を見上げて呟いた。


 俺も彼女の視線の先を追って肯定する。


「ええ。正直、閻魔殿のものよりずっと……」


 かなり巨大なゲートだった。いままでに見たこともない規模の。


 それだけにやや不安と緊張を抱く。




 そのとき。


 バチバチッ。


 その心を見透かすように、ゲートがわずかに反応を示した——。




———————————

あとがき。


よかったら反面教師の新作、

『悪役貴族の末っ子に転生した俺が謎のチュートリアルとともに最強を目指す(割愛)』

を見て応援してくれると嬉しいです!

面白いですよ!

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