第105話 最悪の知らせと?

「東京に……複数のゲートが開いたぁ!?」


 世界樹ギルドのエントランスにて、紅さんの大きな声が響いた。


 タイミングよく中に入った俺は、彼女の言葉を聞いて驚く。一体何事か、と。


 よく見ると紅さんは右手にスマホを持っていた。画面を耳に当てているから電話中だろう。


 しかし、東京にゲート? それも複数?


 嫌な予感がした俺は、すぐに紅さんの下へ近づいた。


「紅さん! どうしたんですか?」


 ちょうど彼女の電話が終わる。


 やや乱暴に通話終了ボタンをクリックした紅さんは、ぷるぷると肩を震わせて言った。


「それはあたしが知りたいくらいだわ! 今連絡がきて、急にいくつものゲートが東京に開いたって! まだモンスターは出てきてないらしいけど……意味わかんない!」


 ぎゃー! と紅さんが地団太を踏む。


 隣にいた花之宮さんは、


「最近増えているゲートの出現報告……それと何か関係がありそうですね」


 と言った。


 それに対してクロが、


「それだけじゃないわ。おそらく……君主側が本格的に動き出したのね。たぶん、また面倒な戦闘になるわ」


 と補足を。


「どういうこと?」


「一昨日、炎の君主と会ったでしょ?」


「う、うん」


「その炎の君主に私たちのことがバレた。だから、イオリを警戒してのことでしょうね」


「俺を警戒して……?」


「厳密には、イオリの中にある私の力を警戒してる。全力を出せるかどうかはバレていないでしょうが、それでも危険視されているのよ、イオリは」


「だから一気に攻めてくると?」


「ええ。今のイオリにちまちま戦力を割いたところで無意味だからね。雑魚が何体並ぼうと雑魚よ。一撃で殺せる。——けど、次はきっと……君主が攻めてくるかも」


「君主が!?」


 ざわっ。


 その場にいた全員の警戒レベルが上がる。


 今の状態で君主と戦うのはヤバい。仮に複数の君主が攻めてきたら、その時点で俺たちは終わりだ。


 ドクドクと早鐘を打つ心臓。


 クロはさらに続けた。


「可能性で言えばかぎりなく低いわ。向こうはいくら協力体制を謳っていても、本心から他の君主たちを信用できない。もしかしたら裏切って国を責め滅ぼすかもしれない、とね」


「前に炎の君主がやってきたけど?」


「すぐに帰ったでしょ? あれは無駄な戦いで時間を消費させられるのを嫌った結果よ。他の君主を信じていたらあの場で戦闘になったいたでしょうね」


「じゃあ……」


「ええ。来るとしても各国の側近レベル。それなら、今のあなたたちでもギリギリ対処できる。ただ……」


「ゲートが東京に密集してるのがウザいわね……」


 ぎりり、と紅さんが奥歯を噛み締める。花之宮さんもこくりと頷いた。


「ゲートが広範囲に開いているなら全員で対処できますが、我々も今は持ち場を離れられない。助太刀に行きたいところですが……」


「わかってる。春姫はともかく、天上たちは無理でしょうね。他のゲート攻略でてんやわんやしてるはずよ」


「ってことは……」


「頼れるのは爺だけ。本格的にまずいわ」


 東京に戦力を集めれば他の県のゲートが対処できなくなる。かと言って東京に戦力を傾けないと東京が陥落するおそれがある。


 二つにひとつ。最悪の状況だ。


「わたくしは参戦しますよ。京都の問題も片付きましたし、関西は部下たちに任せます。わたくしひとりでもいないよりはマシでしょう?」


「防衛の要であるアンタがいなくなったらかなりキツいんじゃ……」


「平気ですよ、紅さん。部下たちは軟弱ではありません。信用に値するとわたくしは信じています」


「春姫……ありがとう。正直、超助かるわ」


 これで京都のS級ゲートを攻略したメンバーは集まる。


 だが、それでも俺を含めて主力メンバーが四人。


 東京に開いたゲートの中にS級ゲートレベルのものが複数ある可能性もある。


 そうなると、四人ではまだ戦力的に不安を感じた。




 全員の表情に余裕がない。


 そんな中、ふいに紅さんの携帯に電話がかかってくる。


 天照ギルドのメンバーかと思われたが、どうやら違うらしい。


 画面に表示された名前を見て、紅さんが首を傾げる。


「——紫音?」


 紫音。特級冒険者の轟紫音だ。


 紅さんが電話に出ると、


「久しぶりですわねぇ、神楽!」


 キーン、という大きな轟さんの声が、スピーカーモードでもないのに聞こえてきた。


 紅さんがキレる。


「うっっっさいわね!! 何の用よ! 今こっちはクソ忙しいっていうのに……!」


「知っていますわ! 私、九州のほうで円卓のお手伝いをしてあげているのですが……東京の話、聞きましたもの」


「だったら悪戯してくれるんじゃないわよ。殺すわよ」


「あなたごときに殺されるほど、私は弱くありませんわ~! おほほほ」


「切るわよ」


 紅さんが通話終了ボタンを押そうとする。


 しかし、直後、


「あら? いいんですの? 特別に私が、戦力不足であろうあなたたちの手伝いをしてあげようと思いましたのに」


 という言葉が聞こえ、ぴたりと動きが止まった。




———————————

あとがき。


明日、新作投稿予定!

初日は2話だゾ☆

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