第99話 ドキドキの一夜

 話し合いが終わり、俺たちは先に部屋に戻る。


 数日くらいは京都を観光しながら過ごす許可をもらった。


 紅さん曰く、


「すぐに帰ったらもったいないでしょ? たまにはパーッと遊びましょう。せっかくS級ゲートを攻略したしね!」


 とのことだ。


 剣さんも、


「どうせS級ゲート攻略の報告をしたら、その後は忙しくなるからな」


 と割り切っていた。


 であれば、俺も割り切って楽しむことにする。




「イオリ」


 部屋に入って早々、クロに声をかけられた。


 振り返ると、彼女はぺこりと頭を下げる。


「どうしたの、クロ」


「シロを助けてくれたお礼。本当に、ありがとう」


「ありがとうございます」


 シロもまた頭を下げて礼を言う。


「あはは。別に構わないよ。俺が助けたくて助けたわけだし。それに、クロからは力も貰ったからね」


 この力はすごい。今も俺の中で莫大な魔力が渦巻いている。


 以前までとは天と地ほどに実力が変わっている。


「それより、今後はクロの魔力も制御できるようにしないと。このままじゃ、クロに負担ばかりかけることになる」


「私はそれでも構わないわ。ただ……たしかにイオリ自身が扱えたほうがいいとは思う」


「だろう? クロが教えてくれるよね?」


「ええ。任せて。今後ともシロを守ってくれるなら何でも手を貸すわ」


「もちろんだよ。もう俺たちは家族みたいなものだしね」


「家族?」


 シロは首を傾げた。


 異世界だとそういう文化……というか、考えがないのかな?


 それとも普通に俺とは家族になりたくない、——って言い方じゃないよね? だとしたら俺のメンタルは破壊される。


「よかったわね、シロ。新しい家族よ」


「クロもだよ」


「え? 私も?」


「俺とクロとシロ。三人で家族だ」


「私は死んでるけど……」


「こうして話せているんだから問題ないだろ? なぁ、シロ」


「……うん。みんなで家族。二人がいたら、私は嬉しい!」


 シロが珍しく屈託のない笑みを作った。


 それを見たクロが、どこか気恥ずかしそうな顔でそっぽを向く。


「そ、そう……なら、私も別に構わないわ。どうせ、イオリのそばから離れることもできないしね」


「おや? もしかして照れているのかい、クロ」


「照れてない!」


 ガーッ! とクロが怒って牙を剥く。


 その表情も行動も可愛くて、俺はくすくすと笑った。


 クロってシロと同じで外見の年齢は少女だからね。


 下手すると俺より年下に見えるんじゃないかな?


「ごめんごめん。とりあえず今日は寝よう。俺は夜通し頑張ったから眠いよ……」


「シロも、疲れた」


「そう。なら寝なさい。生きている人間には睡眠が必要なものよ」


「クロは寝ないの?」


「意識を落とすことはできるから、そういう意味では寝るわね。起きてても暇なだけだし」


「じゃあみんなで寝ようか……って言っても、シロは別の部屋があるから、そっちで寝てね」


 言いながら俺は寝室のほうへと向かった。手をひらひら振りながらベッドに潜ると、




「ん、平気。ここでいい」


 となぜかシロが同じベッドに入ってきた。


「シロ!? なんで俺のベッドに……」


「部屋を移動するのが面倒。それに、私たちは家族。だから問題ない」


「俺の国では割と問題ありそうな光景なんだなぁ、これが」


 実の兄妹なら問題ないんだろうけど、俺とシロは血が繋がっていない。


 血どころか住んでいた世界も違うが、それはともかく中々にまずい絵面では?


 こんなところを他の人にでも見られたら、かなりの誤解を受けそう。


「とりあえず、今日のところは別室で……」


「や」


「えぇ……」


 全力で拒否られた。むしろ俺の体にしがみ付いてくる。


「ちょっ、シロ!?」


「ふふ。ずいぶんとシロに懐かれているじゃない。嫉妬しちゃうわ」


「クロ様も、一緒に、する?」


「え!? わ、私も?」


 先ほどまで大人ぶっていたクロが、急にあわあわとし始める。


 コイツ……耳年増なタイプか。


 経験もないくせに大人ぶるから強烈なカウンターを食らうことになるのだ。


 面白いので俺も言ってみた。


「やれやれ……しょうがないね。ほら、クロもおいで。三人で川の字になって寝よう」


「えええ!?」


 明らかに動揺するクロ。


 拒否しようとしていたが、シロにジッと見つめられては中々に断りにくい。


 ややあって、


「……しょうがない、わね……」


 と顔を真っ赤にしながら俺の背中に抱きついてきた。


 今度は俺がビビる。


 えええええ!?


 普通、同じベッドで寝るだけだと思うじゃん? なんで抱きついてくるのおおお!?


 シロを見て学習したんだろうが、間違ってるよ闇の君主様!


 なんで一国を治めていた王様が、こういう経験はゼロなんだ!


 もしかして……向こうの世界では機会がなかったのか?


 だとしたら俺は、割と間違った選択をしたかもしれない。


 前後を美少女たちに挟まれて、ドキドキと心臓の高鳴りが止まらなかった。


 俺……寝れるかな?

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