第95話 黒騎士、圧倒する

 真っ先に、俺の光線が空を黒く染めた。


 槍のように、銃弾のように速く相手へ迫る。


 それを黒衣の男は避けながらこちらに接近した。


 相手は普通の攻撃では俺の防御が崩せないと踏んだのだろう。似てるようで俺と男の魔法は性質がやや異なる。


 効果で言えば俺のほうが上だ。


 だから鎧をまとえないし、こうして肉弾戦に持ち込むしかない。


 だが、肉弾戦で有利になるのはこちらも同じ。


「————魔剣グラム」


 右手にひと振りの剣が握られた。


 すべてを崩壊させる最強の剣だ。これを当てればどんな防御だろうと関係ない。


 今の俺の魔力なら、相手の防御すら容易く貫ける。


「こいよ。一撃で終わらせてやる」


「やれるものなら——やってみろ!」


 あえて相手を煽るように挑発する。


 一撃で決まるとは本気では思っていない。


 相手が地面を蹴り、ステップを踏みながら至近距離で攻撃してきた。


 黒い閃光が俺の視界を埋め尽くす。


 避けるのはほぼ不可能だ。しかし、避ける必要はない。俺のまとった鎧が、相手の攻撃のすべてを無効化する。


「どうした? こんなもの——か!」


 近付いてきた男へ魔剣グラムを振る。


 辛うじて攻撃は回避された。


 いくら魔力が跳ね上がろうと、俺の身体能力まで規格外になるわけじゃない。


 身体能力でいえばまだ相手のほうが上か。


「なんだかんだ、近距離は相手のほうが分があるわね」


「みたいだね。もっと派手な技で立ち回るべきかな?」


「そうね。あとは……ちょっと魔力を借りるわよ?」


「ん? いいけど……何をするの?」


「仲間を増やそうかと思ってね」


「仲間?」


 俺が首を傾げると、地面に大量の魔力が吸われていった。


 地面が紫色に発光。そして、魔法陣が描かれる。


「さあ——久しぶりにその姿を現しなさい! 我が眷属たちよ!」


 クロが叫び、魔法陣から複数のモンスターが現れる。


 騎士。竜。狼。鳥。蛇。


 人型から動物型まで幅広い種類のモンスターが呼び出される。


 おどろおどろしい姿は、どんな魔法が発動したのか一発でわかるものだった。


「まさか……死霊術?」


「そうよ。アイツも同じ魔法を使っていたけど、私とはクオリティが違う。それに……私のかつての部下やペットたちは、あんな雑魚じゃないわ」


 クロが攻撃を命令する。


 モンスターたちはそれぞれが黒衣の男へ向かっていく。


「コイツらは——かつての眷属共か! どうしてお前はそこまで君主の魔法を……!」


 ぎりぎり、と奥歯を噛み締めながら黒衣の男は魔法を撃ちまくってモンスターたちを吹き飛ばす。


 さすがに全盛の力ではないからか、黒衣の男のほうが上に見える。


「ふうん。意外とあっさりと倒されるわね。イオリも攻撃しちゃいなさい、今のうちに」


「う、うん……そうだね」


 割と魔力が好き勝手に使われているような気もするが、もとは彼女の魔力でもある。気にしないことにして、光線をひたすらに放射した。


 眷属による集団攻撃が混ざったことにより、相手の動きや警戒がわずかに緩む。いける。


 少しずつだが、相手に攻撃が当たるようになった。


「クソッ! クソクソクソクソ! なんで俺が……どうして俺が、こんなに目に——ぐっ!?」


 とうとう竜の手に捕まって地面に叩き落された。


 地面をバキバキと砕いて一時的な拘束を受ける。


 すぐに魔法を撃ち込んで竜を吹き飛ばすが、その頃には目の前に俺がいた。


「お前が最低のクソ野郎だからだよ!!」


 必殺の一撃——魔剣グラムが地面ごと男の体を貫く。


 そこに衝撃はない。ただただ、吸収と崩壊の効果が発動した。


 内側から黒衣の男の体を蝕む。


「ぐああああああ!? お、俺の体があああああ」


 黒衣の男は狂ったように叫ぶが、もう遅い。


 空から降り注ぐ、魔剣グラムとは違う効果を持った剣が、深々と男の体を地面に縫い付ける。


 おまけに大量の弱体化も付与し、まともに俺を振り払うことすらできなくなっていた。


「終わりだよ。あとはこのまま殺す——と言いたいが」


 魔剣グラムだけは抜く。


 これ以上やると男が死ぬ。死ぬ前に情報を抜き取っておきたかった。


「ナイス攻撃ね、イオリ。一撃で粉々にされたらどうしようかと思ったわ」


「クロ?」


 後ろからクロがやってくる。


 地面に押さえつけられた男を見下ろし、その胸に手を置いた。


 直後、


「ぬぐっ!? き、貴様……! 俺の力を……」


「違うでしょ。あなたの力じゃない。これは——私の力。返してもらうわ」


 ズズズ、と黒衣の男から黒い魔力が吸い出されていく。


 魔力はクロの体に吸収され、後ほど俺の体に宿った。


 もはや自分では読み取ることすらできない量の魔力が蓄積されている。


 あまりの多さに底が見えない。所有者である俺ですら、全容が覗けないほど圧倒的な質量だった。




「これでもうあなたの夢はどう足掻いても叶わない。次は、その罪を清算しなさい」


 クロが冷たく見下ろす中、黒衣の男の体が、徐々に白みを取り戻していった。




———————————

あとがき。


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