第94話 黒騎士、覚醒する
周囲を覆っていた闇色のドームが消え去る。
シロを守っていた闇の衣も消滅し、俺自身の鎧も空気に溶けていった。
その場の全員が驚く。
「庵? どうして結界を解いたの?」
「どうした? 魔力が底を尽きたのか、人間」
紅さんがやや心配そうな声をかけてくる。
次いで、人型モンスターが挑発的な笑みを向けるが、逆に俺はにやりと笑った。
「いいや? むしろ魔力はあり余るくらいさ」
「なに?」
そう言った直後、足元から黒い魔力が這い上がってくる。
普段の俺の魔力とは異なる——闇の君主の魔力だった。
「そ、その魔力は……!? まさか……貴様、闇の君主の魔力に!?」
「ああ。この通り適合できたよ。悪いな。お前の最後のピースを奪って」
体の内側から莫大な魔力が溢れ出る。
俺が吸収したのはごく一部かと思ったが、それでもこんなに魔力が跳ね上がるのか……。
「先に言っておくけど、あなたは特別よ、イオリ」
「ん?」
「どうせ私の魔力が膨大とか、一部でこれか、とか思ってたんでしょ?」
「なんでわかるの」
怖いよ。エスパーか何かかな?
「顔を見ればわかる——と言いたいけど、今の私とあなたは強く繋がっている。文字通り魂の根底で」
「そのせいでなんとなく心が読める、とか?」
「正確じゃないけどね」
「十分に正確だったよ」
「それはイオリがわかりやすいからじゃない? ——とにかく、あなたが感じている力の原因は、適合率の高さにあるわ」
「適合率の高さ?」
「ええ。あそこにいる男は、精々が50パーセント。対するあなたはほぼ100パーセント。引き出せる魔力の量もケタが違うの」
なるほど。どうりで君主の一部でもこんなに魔力を感じるはずだ。
適合率が具体的に何を示しているのかはわからないが、今はたくさん魔力を得られたとわかればそれでいい。
これだけ魔力があれば、アイツにも届く。
「くぅっ! 舐めるなよ、異世界の猿が! 突発的に得られた能力で、俺の一撃を止められるものかああああ!」
制御された巨大な魔力の塊が、俺とシロの頭上に落ちる。
闇の君主が、
「平気よ。あの程度ならガードしなさい」
と呟く。
俺はこくりと頷いた。
「わかってる。負ける気がしないよ」
闇の魔力を練り上げる。
俺の魔力と組み合わせ、黒魔法を発動した。
——深淵の帳。
足元から湧き上がる魔力が、徐々に俺の体を包んで、シロの体も包み込む。
次に、平均的なサイズの盾を構築すると、それを上に掲げて相手の攻撃を受け止めた。
前までの俺なら、今の攻撃に対応できなかっただろう。
衝撃を殺すことはおろか、吸収すらできずに押し潰されていた。
しかし。
今の俺の魔力は、相手の魔力を吸収・崩壊させる。あらゆる衝撃が盾に防がれてこちらには届かない。
そこには、衝撃も重さも何もなかった。
「なっ!? 俺の魔法を……受け止めただと!?」
「軽いな。ずっと軽い……今の俺なら、この倍でも防げそうだ」
体から力が漲る。
ただ魔力を放出するだけですべてを壊せそうな気すらした。
「今のあなたならもっともっと力を使いこなせるわ。試しに私の技を教えてあげる」
「技?」
「ええ。現役の頃に使っていた技。と言っても、私はゴリ押しするタイプだからあんまり参考にはならないけどね」
「どういう技なの、それ」
「複数の闇の魔力を周囲に浮かべなさい。あとはそれを相手に同時に放つだけ」
「たしかにシンプルな攻撃だ」
魔力とは体から離せば離すだけ操作や制御が難しくなる。
俺の魔剣グラムのように、手を介して伸びていくタイプならまだしも、ただ空中に浮かべて、さらにそれを放出するとなるとかなり制御が難しい。
ちなみに周囲を包む結界は、足を基点に展開しているから割と制御が楽だったりする。
その分、本人である俺が意識を失ったりすると解除される危険はあるが。
とりあえず今は、闇の君主——クロの言う通りにしてみた。
魔力を周囲に浮かせる。イメージしたのは球体だ。
「——ん? なんだか制御が楽になっているような……」
「私も協力して制御してあげてるからね。あなたは狙いをただつけるか、魔力を流し続ければいいわ。あとは私が担当する」
「マジか。それってありなの?」
「おおありよ」
「それじゃあ次は……結界を展開っと」
周囲を再び闇色のドームが包む。
これで攻撃しても外に被害はいかない。相手もゲートを使って逃げるしかない。
「さあて……準備はいいか、この裏切り野郎」
「ッ! まだ……まだだ! 俺はお前らを殺し、必ず証明してみせる! 闇の君主を超えたと!」
相手の魔力も跳ね上がる。さすがに君主の魔力を持っているだけあるな。
だが、こちらも負けていない。さらに魔力を注ぎ込んで球体を大きくした。されど、クロが制御してくれるから攻撃に問題はない。
両者共に、魔力を黒色の魔力をぶつけ合う。
———————————
あとがき。
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