第91話 黒騎士、苦戦する

 復活しようとする男へ、魔剣グラムによる刺突を放つ。


 当然、剣さんと同じように闇の魔力がそれを防いだ。


「くっ! 硬い……!」


 その闇の魔力は、俺の魔剣グラムでは簡単には貫けない。


 ぎりぎりとお互いの力が拮抗し、同時に弾けた。


 後ろへ飛ぶ。


「明墨くん!」


「平気です! でも……どうやら妨害は間に合わなかったみたいですね」


 正面を見ると、ばらばらになった男の体が完全に再生していた。


 むしろ魔力の総量が増えている。魔力の反応も……酷く不安を感じる。


 あれが本気を出した姿ってことか。


「貴様ら……もう手加減はしてやらんぞ。これこそが闇の君主へ至った俺様の力だ! 闇の君主の力を使いこなした、新たな君主の力だあああああ!」


 闇が放たれる。


 紅さんのように広範囲を攻撃した。


 咄嗟に剣さんを守るために盾を形成。正面からの攻撃をガードする。


「ぐっ、うぅ……!」


 ダメだ。相手の攻撃力が高すぎて深淵の帳でも威力を殺しきれない。


 このままではいずれ魔力による防御に失敗してダメージを受ける。


 俺はまだ鎧をまとっているからいいが、剣さんは生身だ。下手すると即死しかねない。


「剣、さん! 剣さんは先に逃げてください! アイツの相手は……俺がします!」


「明墨くん……わかった」


 剣さんはすぐに了承してくれる。


 自分が現状においてあまり役に立たないことを理解してくれたのだろう。


 後ろに飛びのいて距離を離した。


 その隙に、俺は自身の魔力を全開にする。


「ふん……やはり貴様は忌々しいな、黒い騎士よ。その姿、その能力……何もかもが闇の君主に似ている」


 一度黒衣の男は魔力を解除した。


 手のひらに集めると、槍のように鋭くする。


「知るかよ。俺は会ったこともねぇんだ。勝手に重ねるんじゃねぇ」


「闇の君主は恐ろしい存在だった。あの女にどれだけ我々が煮え湯を飲まされてきたか……」


「その結果が裏切りか? だとしたら小さい男だな。その恨んでいた相手の力も奪って自分のものにしてるあたり、本当に……どうしようもない」


「黙れ! お前に俺の何がわかる!」


 黒衣の男が凝縮した魔力で形成された槍を投げる。


 槍は高速で俺のもとに迫った。


 それを横に飛んで避ける。


 すると、地面に接触した槍は、まるで液体のように弾け——複数の小さな槍に変化してから俺を追尾した。


「外れても数を増やして追尾してくんのか」


 厄介な攻撃だな。


 だが、サイズが小さくなったってことは威力も低くなってるはず。


 魔力を盾に変化させそれを防御した。


 なんとか盾は貫通されずに済む。が、今のあいだに黒衣の男は俺の後ろに回っていた。


 拳を握り締めて振るう。


「ッ!?」


 ガツンッ! という衝撃が鎧を貫通して生身の体に走った。


 俺はそのまま地面をバウンドしながら吹き飛ばされる。


 ガリガリと地面を削ったあとで、結界に当たって動きが止まった。


「ククク……どうだ、人間。これが王の力。今や俺が王で、俺の力だ。ふざけたことを抜かすお前は入念に甚振ってから殺してやるぞ。ククク」


「……チッ。これだから浅慮な奴は嫌いなんだ。めんどくせぇ」


 魔力をさらに放出する。


 結界を維持するのも難しくなってきたが、この男に勝たないと、結果的には意味がない。


 俺は結界を解こうと魔力に干渉——する前に、ぴたりと動きを止めた。


 俺が行動するより先に、炎がやってくる。


 紅さんだった。


「ちょっと待ちなさいよ。あたしを無視して勝手に盛り上がらないでくれる? あんたの相手はあたしよ!」


「紅さん!」


「女……わざわざ俺に殴られに来たのか? 休んでいればよかったものを」


「いやいやいや。今度殴られるのはそっちだから。もう、全力で殺す!」


 紅さんの魔力総量が増加する。完全にリミッターが外れていた。


 炎が膨れ上がり、紅さん自身を巨人へと変化させる。


「ほう……まさかそれほど精霊との相性がいいとは……面白い。お前はやはりこちらの仲間になってもらおうか」


「寝言は寝てからいいなさい。クソ野郎!」


 紅さんは拳を作って振るった。


 今の紅さんなら、それだけでもミサイル級の威力を発揮する。


 だが、男も負けてはいない。魔力を練り上げて巨大な盾を形成した。俺が作ってるものと同じ。


「あれは……!」


「真似するぞ、異世界の猿! お前の戦法は実に学習のし甲斐がある」


 紅さんの攻撃が盾によって防がれる。


 それだけじゃない。黒い魔力は徐々に紅さんの周りを覆いながら迫る。


 それを、彼女は魔力のゴリ押しで突破した。


 周囲への被害が甚大ではない。これでは結界を解くのは不可能だ。


 膝を曲げて地面に倒れる俺。今は彼女を信じることしかできなかった。


 しばしの休憩を挟もうとしていると、そこへシロが現れる。




「……シロ? なんでこんな近くに……」


「このままだと少しだけまずいかもしれない。もう……イオリにこれを託すべきだと思った」


 そう言って彼女が差し出したのは……小さくて黒い水晶玉だった。

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