第85話 黒騎士、魔法をぶつける
京都にあるS級ゲート攻略の日。
ゲートの前に立つと、突然、ゲートが帯電を始めた。
これはモンスターがこちらの世界にやってくる合図。慌てて俺たち三人はその場から飛び退いた。
少しして、ゲートから複数のモンスターが姿を見せる。
「おやおやおやぁ? これはこれは……小生たちを歓迎してくれる——わけではありませんよね?」
ゲートから出てきたのは、日本語を話す人型モンスター。
それに、他にも数体のモンスターが現れる。
「ハッ! まさかゲートに入ろうとした直前に、人型モンスターが出てくるなんてね。あんた、こっちの様子でも見てたの?」
「まさかまさか。偶然ですよ、偶然。しかしタイミングがよかったみたいですね。あなた方の妨害ができたなら幸いです」
にぃっ、と男は笑う。
不気味な男だ。不吉なオーラをまとっているように見える。
「——あなたは……」
「おや? おやおやおやぁ? これはこれは……探す手間が省けましたねぇ。こんな所でアナタに会えるとは」
「シロの知り合い?」
「うん。闇の君主を裏切った奴」
「裏切りとは酷い。あれは犠牲を最小限にするための努力と言ってほしいですね」
「ありえない。あなた達はたしかにあの人を裏切った」
「冷たい言葉だ……事実、たくさんの者が救われたというのに」
やれやれ、と男は肩を竦める。
態度から気にしていないことがわかった。
「まあいいでしょう。あなたに理解してほしいとは思ってもいません。それより……あなたが奪った君主の魂を寄越しなさい。それはあなたが持っていてもしょうがないもの」
「断る。誰があなたなんかに……」
「殺されますよ? それを持っているかぎりは。逆に言えば、それさえ手放せば許される程度の罪です」
「断る」
「命より惜しいと? 本当にあなたは忠臣だ。ムカつくほどに……!」
男の体から魔力が放出された。どす黒い闇色の魔力だ。
コイツも俺と同じ系統の魔法を使うタイプっぽい。
闇の君主の手下っていうのは、全員が黒魔法の使い手なのか?
いや、でも……前に戦った
疑問が増えたが、考えている暇はなかった。男が周囲に黒い粒子のようなものをばら撒く。
——あの手の攻撃は……!
「紅さん! 剣さん! あの黒い粒はウイルスだ! 吸い込むと状態異常になりますよ!」
「ウイルスぅ? 侵略者らしい攻撃ね! 燃やしてやるわ!」
「まあ待て、紅」
手のひらに炎を浮かべた紅さん。それを、剣さんが止めた。
「ここは私に任せなさい。お前がやると視界が悪くなる」
「……チッ。ならさっさと飛ばしなさいよ」
「もちろんだとも」
そう言って、剣さんを基点に風が吹く。
強い風だ。こちらへ流れてきた黒い粒子を、いとも容易く吹き飛ばした。
空の彼方へと消えていく。
「ほう? ほほう。そちらの老いぼれは風を使いますか」
「相性が悪い、などとくだらぬ言い訳はしないだろうな? 人型モンスター」
「しませんとも。むしろ……これで終わりだと?」
さらに男が魔力を放出した。今度は黒色の光線が放たれる。
狙いは剣さんだった。その攻撃を半身になって避ける。
光線は斜め下に向かい、地面を穿って深々と削った。見ればわかる。あれは……、
「庵と同じ攻撃!?」
俺の使う魔剣グラムと同じ、吸収と崩壊に見えた。
いや……厳密には、風の魔法と闇の魔法を組み合わせているのかな?
光線というよりも、回転した刃が迫ってくるようなものか。
「ちょっと違いますね。むしろ剣さんの魔法に近い」
「あの一瞬で小生の魔法を見抜きますか。体から感じる魔力といい……あなたも小生と同じ魔法を使うらしい」
「試してみるか? どっちの魔法がより威力が出るか」
「いいでしょう。それも一興」
再び男が高速回転する闇色の刃を放つ。
俺は魔力をまとった。深淵の帳を展開し、同時に手のひらに小さな盾を形成する。
相手の攻撃力を測るためにあえてそれを受け止めた。
すると、
「ぐぅっ!?」
凄まじい衝撃と連撃が発生する。
ガガガガ、と俺の魔法を相手の魔法が削っていた。
本来なら威力を完全に吸収するはずの盾が、吸収しきれずに防御に回っている。
だが、攻撃面は崩壊のほうが上だ。
盾が壊されることはなく、逆に相手の攻撃を呑み込み消し去る。
「……なるほど。このくらいの威力なら、直撃しても問題ないな」
「手加減してますよ? まだ」
「それでもいいさ。どうせ防げる」
俺だって本気じゃない。盾の強度も範囲もまだまだ拡張できる。その時点で、心配事はひとつ消えた。
そして、
「じゃあ次はこっちの番ね!」
紅さんが一気に攻撃に転じる。
全身に炎をまとって男に体当たりを決めた。
ブーストされた一撃が、男の防御を貫通する。拳が腕にあたり、そのまま後ろにある神社へと男を吹き飛ばした。
「紅さん……神社を壊さないでください」
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