第84話 作戦開始
「————!」
紅さんの炎に焼かれたモンスターが、断末魔をあげながら灰となる。
死霊系モンスターは浄化、あるいは炎による攻撃に弱い。特に今回のような実体があるタイプのモンスターは炎に弱かった。
そのせいもあって、紅さんひとりであっさりと決着がつく。
「ふい~。なんだかあんまり手応えがなかったわね。強いのも一体だけだったし」
「攻略前に強い個体が現れては困ります。本格的に攻略するのは明日からでしょう?」
「なーに言ってるのよ、春姫。強い奴を倒したらそれだけ明日も楽になる! だからぶっ飛ばしたほうがいいに決まってるわ!」
「……相変わらずですね、紅さんは。逆に安心しました」
くすくすと春姫さんは笑う。
紅さんは首を傾げたが、俺は彼女が言いたいことがわかった。
「その気持ちはよくわかります」
「馬鹿のおかげで雰囲気がいい、ということか」
「はぁ!? なに言ってるのよ爺! 春姫も庵も笑うな! 燃やすわよ!?」
「これ以上暴れるんじゃない。それより、戦ってみた感じはどうだ?」
「あんたが馬鹿にするから怒ってるんじゃない……まったく」
盛大にため息を吐いたあと、剣さんの質問に紅さんは答える。
「そうね……さっき言った通りよ。正直、雑魚は本当に弱い。肉体能力はともかく、機動力が終わってるわね。あれじゃ、攻撃してくださいって言ってるようなものよ」
「紅とはなおさら相性がいいな」
「爺もね」
「あとは明墨くんもか」
「というより、あれと相性が悪い奴なんていないわよ。それくらい致命的に終わってる」
「ふむ……では逆に、強い個体はどうだった?」
剣さんがジッと紅さんを見つめる。
ややあって紅さんは答えた。
「強かったわ。人型モンスターよりは弱いけど、舐めてかかると痛い目に遭う」
「私が思った通りだな」
「でも爺とは相性がいいわ。数がそんなにいないなら、爺ひとりでほとんど殺せる」
「他には?」
「庵も相性いいんじゃない? あの黒い鎧を突破できるとは思えないし、庵と爺がタッグを組めば楽勝ね」
「俺と剣さんが……ペア?」
「悔しいけど最悪最強のペアね。相手する側が可哀想に思えるわ」
俺と剣さんか……たしかに相性はいい。俺は防御に突出しながらも攻撃ができるタイプで、剣さんは明らかに近接型。
お互いに距離を離さずに行動し続ければ、ほぼ一方的に攻撃できる。
相手が集団なら紅さんのほうが上だが、単騎を相手にするなら一点集中できる剣さんだろう、たぶん。
「その組み合わせはぜひとも見てみたいものですね」
「春姫もそう思う? 実際に明日、試してみましょうよ」
「ぶっつけ本番でやるというのか……適当すぎるだろ」
俺もそう思います、剣さん。
いくらなんでも練習なしはキツいよ。それに、みんなで行動するなら、わざわざペアになる必要もない。そもそも、人数的にペアになったら困るのは紅さんのほうだ。
「ぶー。爺は冗談が通じないわねぇ。まあいいわ。今日のところはモンスターも来ないし、さっさと帰りましょう。明日の夜から攻略始めるんだから、ゆっくり休まないと」
「そうですね。わたくしは中には入りませんが、いざとなったら逃げてきてください。守ります」
そう言って紅さんと花之宮さんは、並んでギルドホームへと戻った。
「我々もいこう、明墨くん」
「はい。……シロ?」
歩き出した剣さんの背中を追おうとしたら、シロがジッとゲートを見つめたまま動かなかった。
声をかけると、彼女はちらりと俺を見て、
「ん、ごめん。いま行く」
踵を返した。
シロからしたら、すぐにでも中に入って調べたいほど気になるんだろうな……。
どちらにせよ、シロは中へ連れていけないが。
▼△▼
睡眠を挟んで一日が経過する。
夜から朝になった、という意味ではない。夜からまた夜になって一日だ。
準備を済ませた俺たちが外に出る。
「んー! 今日は天気もいいし、サクっとゲートなんて攻略して、美味しいものでも食べましょう」
「では、そちらはわたくしのほうで手配しておきますね。決して死んではいけませんよ?」
「任せなさい。飯のために無傷で帰ってくるわ」
「攻略できなかったからキャンセルですけどね」
「そうなの!?」
ガビーン、と紅さんがショックを受ける。
くすくす笑って花之宮さんが言った。
「攻略祝いなんでしょう? 攻略できなかったら食べられませんよ」
「誰も攻略祝いなんて言ってない!」
「でも、攻略しないと美味しいものを食べても虚しいだけ。頑張ってくださいね」
「うぐっ……それはそうね。しょうがない。爺も庵も気合を入れなさい。今日は全力でいくわよ!」
「わかっている。足を引っ張るような真似はせんよ」
「頑張ります。俺は俺なりに」
俺も剣さんも返事を返し、三人がゲートの前に立った。
すると、そのタイミングで……バチバチバチ!
ゲートが帯電を始めた。モンスターが出てくる合図である。
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