第83話 適性

「闇の君主の……魔力?」


 シロが戦々恐々としながらも呟いた言葉を拾う。


 彼女は、俺を見つめて頷いた。


「間違いない。あのモンスターを操っているのは……闇の君主の力」


「でも、シロの話だと闇の君主は死んだって」


「そのはず。それだけは覚えてる。目の前で殺された。確実に」


 俺以上にシロがパニックになっていた。


 その間も次々にモンスターが現れ、それを紅さんが駆逐していく。


「ねぇ、春姫。本当にコイツらが動画と同じモンスターなの? ぜんぜん強くないんだけど……」


「言ったでしょう? 弱い個体もいると。運がよかったですね」


「どこが! あたしとしては、強いモンスターと戦ったほうが……ん?」


 紅さんの言葉は途中で止まる。俺も剣さんも、花之宮さんも紅さんと同じほうへ視線を向けた。


 炎の中から、一匹の人型モンスターが姿を見せる。


 紅さんの炎を喰らっても平気となると……かなりの強さだ。佇まいからそれがわかる。


「あら……わざわざあたしのために来てくれたのかしら」


「…………」


 人型モンスターは喋らない。ジッと紅さんを見つめると、わずかに腰を落として地面を蹴った。


 一瞬にして、紅さんの目の前に現れる。


「ッ」


 振り抜いた拳を、首を傾げて避ける。


 カウンター気味に紅さんが目の前のモンスターを蹴り飛ばす。


 炎をまとって吹き飛ぶモンスター。しかし、すぐに体勢を整えて炎を消し去った。


「気をつけてください、紅さん。それがわたくしの言ってた強い個体ですわ」


「ははっ。見ればわかるわよ。結構やるわね……」


「手を貸してやろうか、紅」


「爺も春姫もそこで大人しく見てろっての。コイツの相手は……あたしがやるわ!」


 紅さんの魔力量が増加した。


 人型モンスター曰く、能力を解放した彼女は「精霊」となっているらしい。


 それがどういう意味を持っているのか俺はわからないが、彼女の炎によって気温も上昇していく。


「やれやれ……紅は協調性というものを持つべきだ」


 そう言いながらも剣さんは大人しく彼女の戦闘を見守る。


 剣さんとて、紅さんの実力は信用しているらしい。


「イオリ」


「ん? どうしたの、シロ」


「あのモンスター……これまでで一番、闇の君主の魔力が濃い。死霊系の魔法を使って蘇ってる」


「それは……闇の君主が?」


 紅さんと謎のモンスターが激突する中、俺とシロは会話を続けた。


「闇の君主じゃない」


「どうしてわかるの?」


「闇の君主の能力はこんなものじゃない。もっと多くの対象を蘇生できるし、あれじゃああまりにも弱すぎる」


「あれで弱い扱いなんだ……」


 どんだけバケモノなんだ、闇の君主って。そもそもそれを殺した他の君主に勝てるのか怪しくなってきたな……。


 シロの話だと、闇の君主は君主の中でも最強だったらしいけど。


「誰かが闇の君主の力を利用してる……?」


「利用できるものなの? そもそも死んでるのに」


「可能性としては……ある」


 そう言ってシロは、自らの胸元を見下ろした。


「私が君主の魂……力の一部を抜き取ったように、同じことを考える奴はいたと思う」


「だとしたら、劣化版の闇の君主がゲートの中にいるってことになるね」


「その通り。あの力に完全に適合できる人はいない。たぶん、半分も使いこなせていない」


「それでもあれだけ強いんだ……すごいね」


 シロには悪いが、そんなバケモノが死んでてくれて個人的には助かった。


 下手すると、その闇の君主ひとりに日本が負ける可能性だってある。


 ネクロマンサーってやつは、超越しすぎるとそれだけおかしな結果を持ってこれるからね。


「でも……もしかすると、イオリなら……」


「え? 俺?」


「イオリなら、闇の君主の力に適合しそう」


「ちなみにそれって、何かデメリットとかは?」


「ない。……いや、あるかも」


「どっちよ」


 急に怖くなってるからやめてほしい、そういうの。


「ある。適合に失敗すると、肉体が力に耐えられなくなって……」


「崩壊する?」


「崩壊する」


「こわっ!」


 ダメじゃん! そんなのリスクがデカすぎて試したくないよ。


 強大な力っていうのは、いまの日本において惹かれる要素ではあるけど。命には替えられない。


「私もやめたほうがいいと思う。一番適性があった私でも、半分より少し上くらいの力しか使いこなせない」


「それだけ強力ってことか……けど」


 けど、だ。


「このゲートの先には、その能力を多少は使える奴がいるんだよね」


「可能性は高い」


「だったら……今回のゲート攻略も、前回と同じで苦戦しそうだ」


 人員は少ない。おまけに、情報もほとんどない。しいて言うなら、剣さんがいるのは大きい。でも、それだけ。


 ゲートの攻略難易度によっては……京都がモンスターの跋扈する地獄に変化する可能性もあった。


 それを念頭に入れて、紅さんの戦いを見守る。途中からほぼ一方的に紅さんがモンスターを押し始めた。


 思ったより早く決着がつきそうだ。

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