第81話 死霊術

 剣さんと部屋を移したあと、しばらくして二人もやってきた。


「なに勝手に移動してんの」


「紅さんたちが喧嘩するからでしょ」


 不機嫌そうな紅さんに絡まれる。


 腕を後ろに回し、首を掴まれ引き寄せられた。


 むにむにと膨らみが顔に当たる。


 こ、この人……でっっっ。


「ご迷惑をおかけしましたね、明墨さん。本日は我がギルドのために集まってくれたというのに」


「まったくよ」


「紅さんには言ってません」


「あ?」


「紅さん」


 これ以上の喧嘩はさすがに俺も止める。


「それより、ゲートから出てきたっていうモンスターの情報はないんですか?」


「ありますよ。動画で撮影しておいたので今からお見せしますね」


 そう言うと、彼女はおもむろに誰かへ電話をかける。


 少しすると、女性がパソコンを持ってきた。


「ギルドマスター、こちらです」


「ありがとうございます」


 花之宮さんがそのパソコンを受け取る。


 電源を入れると、早速、動画を再生した。


 俺も剣さんも紅さんも、そしてシロもパソコンの画面に齧りつく。


「イオリ、これはテレビ? 家にあったのとサイズが違う」


「テレビじゃなくてパソコンだね。スマホ……携帯電話は見せたよね? あれの巨大版、と思ってくれていいよ」


「スマホの……巨大版……」


 おぉ、とシロは関心していた。


 その後、じっくりと流れた動画に目を移す。撮影されているのは、ゲートの正面。


 縦に引き裂かれたゲートが丸く広がり、中から数体のモンスターが出てくる。


「あれが失楽園のモンスターですか」


「はい。大小様々なモンスターが現れますね。正直、対応するのが面倒です」


「強さはどれくらい?」


「それもまちまちですね。強い個体もいれば弱い個体もいる。普通のゲートとそこは変わりません」


「なるほど……」


「見たとこ、死霊系のモンスターの割合が多いか?」


「よく気付きましたね、剣会長。その通りです。これ以前の動画でも、出てくる大半のモンスターは人型の死霊系モンスター。それがこのゲートの特徴なんでしょうか?」


「死霊系モンスター……あの見た目に、画面越しでも伝わってくる魔力……」


「シロ?」


 何やらシロがぶつぶつと呟いていた。


 動画の音声もあるため完全には聞こえなかったが、魔力がどうのって。


 たしかに魔力はカメラ越しでも見える。それで言うと、あの死霊系モンスターたちには特定の魔力が込められていた。


 黒い魔力——つまり、黒魔法の気配がする。


「イオリ、あれは魔法」


「そうだね。俺もわかったよ」


「お二人の言う通りです。我々は一目見て気付きました。あれは魔法によって操られている——もしくは生まれた存在だと」


「たしか黒魔法の中には、死霊系の能力もあったね」


「はい。俺はあんまり得意じゃないですけど」


 黒魔法はかなり特殊な魔法だ。希少と言われる白魔法より謎が多く、どの系統の魔法より適性者が少ない。


 俺は主に、無効化と弱体化の魔法が得意だ。死霊系統の魔法も使えるが、正直、外聞が悪すぎて使っていない。


 黒騎士でネクロマンサーとか属性付きすぎだよね。


 それに、死霊系の能力は制限も多く、使いにくいってのが一番の理由だ。


 まず、


「この動画でも映っている通り、死霊系の魔法で蘇生したモンスターは、日光に非常に弱くなります。あと炎にも」


「夜中にしかモンスターが出てこないのはそれが理由ですね」


「はい」


 仲間がいちいち日差しごときで死んでいたら、魔力が削られるだけでちっとも役に立たない。


 ダンジョン内部であればかなり制限も弱まるが、相当の熟練した魔法でも使わないと、動きが遅くて攻略が滞る。


 あと、普通に敵をボコせる俺からしたら範囲攻撃の邪魔。


 そんな理由から、俺は使っていない。


「それに、モンスターは術者の指示には従いますが、それは拘束力がある、という意味でもありませんしね」


「というと?」


「下手すると、自分以外の仲間にも襲いかかる可能性があります」


「それはまた……欠陥魔法だな」


「そうですね、剣会長。よほどこの魔法に性質していないと役に立ちません。拘束力は術者の力量に左右されますから」


「だとしたら、ゲートの内部にいる死霊術師は、相当な技量を持っている可能性があるかね?」


「うーん……これだけだとなんとも。先ほど花之宮さんが強い個体もいたって言ってましたし、技量が高い可能性はありますね」


 対象にするモンスターが強いほど、拘束力は弱まる。


 それでも従えることができたってことは、それだけ膨大な魔力を持っているってこと。


 S級ゲートのモンスターだし、舐めてかかれる相手ではなかった。




「……気になる」


「シロ? どうしたの」


「この能力を使ってる相手が気になる」


「なんで?」


「なんとなく……嫌な予感がしたの」


「抽象的だね。心当たりでも?」


「たぶん、違うとは思うけど……実際に見たら、また違った感想を抱くかもしれない」


「でしたらたぶん、今夜も現れると思いますよ? そのときになったら、シロさんもご一緒に来たらどうですか?」


「いく。確信しなきゃいけない……そんな気がする」


 シロの意思は固かった。


 守りやすいし、俺も拒否する理由はない。なんとなく……俺も気になったしね。

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