第79話 黒騎士、要になる?
花之宮さんがシロを見つめる。
「小さい女の子……に見えますね。とても過激な能力を持った異世界人とは思えません」
「シロは正真正銘、ほとんど魔力を持たない一般人ですよ。ゲートを使ってこちらへやってくる際に、何かしらの理由で能力が制限、あるいは消失したのかと」
「なるほど。それは災難でしたね」
あくまで花之宮さんの様子に変化はない。だが、内面ではシロのことをどう思っているのか。
彼女の対面に、シロと共に腰を下ろして座る。
探るのは得意ではない。単刀直入に訊いてみた。
「花之宮さんは、異世界人に対して偏見や憎しみのような感情はないんですか?」
「もちろんありますよ」
キッパリと、彼女は笑みを浮かべたまま答える。
「わたくしはたくさんの人を異世界人に奪われました。目の前で死んでいく仲間たちを見るのは、いつだって辛いものです。だから守ろうと決めました」
「だったら、シロにも特別な感情があるんじゃないですか?」
「ない、と言えば嘘になりますね。彼女がいくら善良な人間であろうと、わたくしの中に燻る気持ちはあります。ですが……だからと言っていきなり攻撃したりしませんよ」
くすくすと彼女は笑った。
なんとなく、本心から言ってると思う。
ホッと胸を撫で下ろした。
「そもそも、こんな所で攻撃なんてしたら、部屋がめちゃくちゃになります。それに……紅さんや明墨さんを敵に回して勝てると思うほど傲慢でもありません」
「春姫の魔法は、たぶん、庵と相性悪いでしょうからねぇ」
「ええ。それもあってわたくしは何もしません。元から彼女には、殺したいと思うほどの憎しみもありませんしね」
「よかったです」
「明墨さんは彼女のことが好きなんですか?」
「——へ?」
急に花之宮さんが斜め上の質問を投げてきた。
「いえ……様子を見るかぎり、とても大切にしていらっしゃるようですから」
「それは……どうでしょう。俺もよく解りません。ただ、彼女が殺される様を黙ってはいられませんね」
「イオリ……」
ぎゅっと隣に座ったシロが俺の服を掴む。
「ふふ。仲良きことは美しきかな。気が変わりました。わたくしも賛同しますよ。明墨さんの意見に」
「俺の意見と言うと……」
「彼女の安全、でしょう? お二人を見ていたら毒気が抜かれました。負の感情はもうありません」
「春姫もそう思う? あたしもなんだか二人を見てるとね」
「幸せそうで何よりです。……さて」
ぱちん。
空気を換えるためか、花之宮さんが両手を叩いた。少しだけ真面目な雰囲気を出す。
そこへ、襖が開かれ剣さんが姿を見せた。
「待たせたな」
「これはこれは、剣会長。ご無沙汰しております」
「久しぶりだな、花之宮。元気そうで何よりだ」
「そちらこそ、元気そうで何よりです。ちょうどこれからS級ゲートのお話をしようかと思ってました。どうぞ、お座りください」
剣さんが腰を下ろす。
それを見て、改めて花之宮さんが話を始めた。
「では、まずは今回、天照ギルドと冒険者ギルドの協力、ありがとうございます。世界樹ギルドを代表してわたくしがお礼を申し上げます」
深々と花之宮さんが頭を下げた。
綺麗な座礼である。
「つきましては、こちらの資料をご覧ください」
そう言って彼女は三つの資料を配る。
受け取った俺は、シロにも見えるように紙面を彼女側に寄せた。
「これは?」
「直近に確認できたS級ゲート〝失楽園〟の様子です、紅さん。出てきたモンスターなどの情報が詳しく記載されています」
「ふーん……一体一体が割と強いタイプね。その分、個体数は少ない可能性がある、と」
「恐らくは。予想に過ぎませんが、これまで一度に攻めてきたモンスターの数は少ないですね。ただ……少しずつ数が増えているようには感じます」
「数が増えてる?」
「ええ。活性化……というより活動を始めてから徐々に増えています。今はまだ我々世界樹ギルドのメンバーだけでも討伐は可能ですが、今後、さらにモンスターが増えるとそれも難しくなります。ご存知の通り、我々のギルドの主な役目は、街中の警備ですから」
「そこであたし達の出番ってわけね」
「はい。まずはゲート内部の様子を探り、どの程度の規模、攻略難易度なのかを調べます」
「まどろっこしい。初見で攻略しましょ」
「急がば回れ、ですよ。確実な情報がない以上、じっくりやったほうが早く攻略できるかと」
「あたしの趣味じゃない……けど、今回はそっちが依頼主だし、まあそれくらいは聞くわ」
「助かります。紅さんに暴走されると大変ですからね」
「あたしをなんだと思ってるのよ!」
ギャオース! と牙を剥く紅さん。
しかし、花之宮さんはそれを華麗にスルーした。
「とにかく、じっくりと数日に分けて攻略していきます。そのためには皆さんの力が必要になります。特に明墨さん、あなたの力がね」
「……え? 俺、ですか?」
意外な名指しに驚く。
彼女はくすりと笑ってから答えた。
「むしろ要とすら言えるかもしれません」
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