第77話 京都へ

 俺の言葉を聞いた途端、シロの表情が曇った。


「……え? お、お留守、番?」


「うん。シロは敵に狙われているからね。今回もまたS級ゲートに人型モンスターが出てこないとは限らないし」


「むしろ確率で言えば出てくる可能性は高いわね」


「そんな……イヤッ!」


 がしっ。


 シロは悲痛な面持ちで俺の腕を抱きしめた。


 もう絶対に離さないと言わんばかりに必死だ。


「シロ……でも、ゲートに行けばシロを守るのが難しくなるかもしれない」


 相手に人型モンスターがいるなら、シロを守りながら戦う余裕があるかどうか。


 最悪、隙を突かれてシロが殺される可能性もある。


「それでもいい。私はイオリと一緒にいる。たとえ死んでも」


「——いいんじゃない?」


「紅さん?」


 シロの言葉を紅さんが肯定した。


「その子も京都に連れて行ってあげなさいよ」


「なに言うんですか……危険ですよ」


「相手が自由にゲートを開けるなら、むしろこのギルドホームに置いておくほうが危ないわ。周りに三人も特級冒険者がいるのよ? 京都にいたほうが安全ね」


「あ……たしかに」


 言われてみれば他の人たちに任せるより、実力のある彼女たちと一緒のほうが安全そうではある。


 今回は剣さんと花之宮さんがいる。特に守ることに関しては鉄壁と言ってもいい。


「S級ゲートには恐らく、あたしと庵と爺が入ることになるわ」


「花之宮さんは?」


「ゲートの外で待機ね。もしも外にモンスターが出たら大変だからその監視役よ」


「なら、花之宮さんにシロを任せれば……」


「たとえ人型モンスターが出てきても春姫なら守れるわね。こと守りにおいては、庵ですら彼女には敵わない——かもしれない」


 ふっと笑って紅さんが結論を出した。


 その意見に反対できる理由はない。


 ちらりとシロを見て、


「だってさ、シロ。どうやら一緒に京都に行けるっぽいよ」


「……ほんと?」


「ああ。シロを守ってくれる人がいるから、その人に任せようね」


「……うん。わかった。これ以上はワガママ言わない」


「よしよし。偉いぞ~」


 なでなで。なでなで。


 シロの頭を優しく撫でる。


「うーん……これは、東雲ちゃんに強力なライバル出現? いや、でも親愛という可能性も……」


「紅さん? どうしたんですか」


 なんかぶつぶつ呟いてる。


 東雲さんがなんとかって。


「なんでもないわ。苦労人っているのよねぇ、どこにでも」


 そう言って彼女は出かける準備をする。


 俺もシロもこれから外に出て京都へ向かう。


 ちょうど明日から休みだし、そのあいだに全てが終わることを祈るのだった。




 ▼△▼




 天照のギルドホーム前に、一台の車が停まる。


 運転していたのは——。


「剣さん?」


 急にどっか行ったと思ったら、車に乗って再登場。


「待たせたね、明墨くん、紅、シロくん。車を持ってきたぞ」


「どうして剣さんが運転を……」


「たまには自分で運転したくもなるさ。それより後ろに乗ってくれ。このまま京都を目指す」


 促されるがまま、シロと俺は後ろの席に座った。


 紅さんが助手席に腰を下ろして車が発進する。




「準備は万端かね? 明墨くん」


「はい。今回は剣さんがいるから安心です」


「ははっ。もう引退した身ではあるが、そこそこ役に立てると思うよ」


「期待してますね。紅さんも安心してましたし」


「はぁ!? 急になに馬鹿なこと言ってんのよ!」


「ほほう……紅にも可愛いところがあるじゃないか」


「うっさい! 爺はいちいち反応すんな! 殺すわよ!?」


 ぎゃあぎゃあと赤面した紅さんが、騒ぎながら剣さんを睨む。


 続いて俺も睨まれた。


「昔の紅は今より尖っていたが……それはそれで可愛げがあったなぁ」


「何よ、急に」


「お前も少しずつ大人になっているということだな」


「ジジくさい。あとうるさい。ウザい」


「照れると人を馬鹿にする癖は健在か」


「爺!」


 もう黙ってくれと言わんばかりに紅さんが叫んだ。


 剣さんは楽しそうに笑う。


「お二人は仲がいいんですね。前から思ってましたが」


「仲良くない」


 紅さんが即答。しかし、


「紅をスカウトしたのがそもそも私なんだ」


「スカウト?」


「ああ。紅はもともと冒険者ギルドの職員でね。頑張って治安維持を勤めていてくれたんだが……前にゲートが発生したとき、少しだけ問題を起こしてね」


「もしかして……」


「街を焼いたやつかしら」


 しれっと紅さんが答えを出す。


 剣さんはこくりと小さく頷いた。


「モンスターもゲートも攻略した紅に罰はない。だが、世間一般の目がある。それを気にした上層部が紅の解雇を通達。私は止めたが、本人がそれを受け入れた。その後どうしたのかと思ったが……すぐに自分のギルドを立ち上げるとはな」


「いいでしょ別に。あのまま爺の下で燻るよりかは、特級冒険者としての役目を果たしたほうがマシだと思ったの」


「別に責めてはいないさ。お前が自由に戦えるならそれでいい。私も納得している」


「……あっそ」


 紅さんはそっぽを向く。


 窓ガラスに映った彼女の顔は、どこか嬉しそうにも見えた。


 なんだかんだ……剣さんの一番のファンは彼女なんじゃないかな?




———————————

あとがき。


予約投稿し忘れてました……!

ごめんなさい!気づいてよかった……


※今日はいいことがあったので、よかったら近況ノート見てくださいね!

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