第75話 動き出す世界
シロと剣さんの会話がひとしきり終わる。
「そうか……異世界人たちの目的は、この地球の征服か」
「間違いない。向こうの世界には許容できる限界がある。だからゲートを繋げた。他にも何か理由があるようなことを言ってたけど、そこまではさすがに知らない」
「解った。有益な情報をありがとう。今後ともよりよい関係を築けると助かる」
「イオリがそれを望むなら」
「ふっ……ずいぶんと好かれているじゃないか、明墨くん」
剣さんが口元を緩めて笑った。
俺は苦笑する。
「シロ曰く、親代わりだった闇の君主に俺が似てるそうですよ」
「能力が?」
「能力も含めてすべてが」
紅さんの問いにシロが間髪入れずに答えた。
「複雑ですけどね……俺はその闇の君主をまったく知りませんし」
「優しい人だった。何もかもを包んでくれる。闇の魔法を操りながら、誰よりも希望の光として君臨していた」
「へぇ……名前から悪い印象を抱いてたけど、そんなに凄い人なんだ」
「そう。元々は異世界でも最強と言われた魔法使い。住んでいた里を追われ、必死に生きるための努力をして国を築いた。すごい人」
「そんな人と一緒にしてほしくないなぁ……俺が霞むじゃん」
国王と一般兵を同列に扱うのはどうなのかな?
たとえそれが実力やカリスマという意味でないとしても、本人はいろいろ気にする。
「霞まない。私にとってはどっちも大切な存在」
「ほほう……これはなかなか熱いね」
「剣さん……変なこと言わないでください。お互いに家族みたいな関係ですからね」
「もう結婚してるなんてずいぶんと思い切ったわね」
「そういう弄りをしてきますか……紅さんは」
「いじるの大好きだもん、あたし」
「紅は性格が悪いからな。昔から」
「アンタに言われたくないわよ! 爺だって若い頃……現役の頃は相当ヤンチャしてたって聞いてるけど~?」
びしっと剣さんに人差し指を向ける紅さん。
剣さんの額にじわりと汗が滲んだ。
「剣さんってそんなにヤンチャだったんですか?」
「い、いや……そんなことはない」
「もうヤバかったわよ。なまじ実力があったから調子に乗りまくり」
「お、おい! 紅! よさんか! 若者の前で……」
「どうせ隠したってインターネットで検索かけたら出てくるわよ。隠せないんだから諦めなさい」
そう言って紅さんは、一拍置いてから再び話し始める。
「そうね……記者たちに『今回のゲート攻略はどうでしたか?』って訊かれたときの話をしましょうか。なんて答えたと思う?」
「え? うーん……楽勝でした、とか?」
「ふふん。違う違う。そのときの爺はね? 『クソザコゲートに俺を呼ぶんじゃねぇ! 俺を誰だと思ってやがる!』とかイキってたのよギャハハハ!」
紅さんがソファの上で腹を抱えて笑う。
対面に座る剣さんの肩がぷるぷると震えていた。
確実に怒っている。あと恥ずかしがっている。
「いつの不良よ! そもそもアンタ何様!? アハハハハハ!」
バンバン、とソファが連続で叩かれる。
そんなに面白く……ないこともなかった。
今の冷静で落ち着いている剣さんからは想像もできない口調の激しさだ。
「ちなみに、当時の爺の外見もネットで検索したら出るわ。今してあげようか?」
さっと懐からスマホを取り出した紅さん。
軽快な動作でスマホの画面をいじると、その途中でわずかな魔力反応を感じた。
そして、気づいたときには——紅さんのスマホが真っ二つに切れていた。
するりと重力に従って、半分ほどが床に落ちる。
「あああああ!? 爺! なにすんのよ馬鹿! このスマホ高かったんだからね!? ちょっと馬鹿にされたくらいで怒りすぎじゃない!?」
「黙れ、紅。あまり年長者をからかうものではない。後で請求しておけ。立て替えておく」
「あったりまえじゃない! まったく……データ移行とかする携帯ショップの店員の気持ちくらい考えなさい」
「それが彼らの仕事だろう」
「でたでた。そういう台詞。仕事って免罪符が付けば何してもいいと思ってるの? ひとりひとりが相手を思いやる気持ちを持てば、世界はもっと生きやすくなるのに」
「お前が言うな」
「そうですね」
「庵まで!?」
紅さんがそれを言ったら終わりだ。というか話の規模が広がりすぎてよく解んない。
「ったく……あんたらはからかい甲斐がないんだから」
ぶすーっとソファに座り直した紅さん。
そのタイミングで、剣さんの懐からスマホの着信音が鳴った。
どうやら電話らしい。
「おっと……冒険者ギルドからだな。すまない、少し電話に出るよ」
そう言って剣さんは立ち上がると部屋の外へ出た。
俺と紅さんはとりあえず話がすべて終わったことにホッとする。
「……シロの首の皮は、一枚繋がったわね」
「剣さんがいい人でよかったです」
「まだ解んないわよ。あの爺の考えることは」
「殺すならもう殺してるでしょ、あの実力なら」
さっきの攻撃もぜんぜん反応できなかった。
視えなかったし、速い。おまけに魔力の消費も最低限だ。
年老いてもなお磨き続ける刃。それが剣さんにはあった。
隠された剣さんの実力の一端を知り、わずかに戦々恐々とする。
——そんなとき、扉の反対側からかすかに剣さんの声が聞こえてきた。
会話はなく、耳がそれを拾ってしまう。
「……なに? 京都にあるS級ゲートが活性化を始めた!?」
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