第72話 闇の君主とは
紅さんにシロから聞いた情報をすべて話す。
聞き終えた彼女は盛大にため息を漏らした。
「ハァ~~~~! なるほどねぇ。異世界の問題をこっちに押し付けようってことかしら」
「そうですね。結果的に向こうの人間が地球を狙っている以上、そう言っても過言ではありません」
「それにしたって、複数の君主に殺された闇の君主……おまけにあたしと同じ力を持つ君主の存在……王様のことでいっぱいいっぱいなんだけど?」
「加えて人型モンスターもそれなりにいると思われます。国があるってことは、モンスターだけが住んでたわけじゃないでしょうしね。そうだろ、シロ」
ちらりと隣に座るシロに答えを求める。
彼女はこくりと頷いた。
「イオリの言う通り。向こうの国にいるのは大半が人型モンスター。あなた達がそう呼ぶ個体はそれなりにいるわ」
「だとしたらまずいわね……そこまでの戦力が一気にこっちの世界で来たら、戦力的にひとたまりもないわ」
「でも向こうは戦力を集中させたりしませんね」
「ゲートにはデメリットもあるから」
「デメリット?」
「一度に送れる定員の限界よ。複数開けばその問題も解決するけど、ゲートは規模を広げれば広げるだけ世界を繋げるのに時間がかかる。恐らく、まだこっちの世界に大量のモンスターがいないのは……」
「まさか……準備段階だから?」
「可能性は高いと思う。私が異世界にいたときから計画自体は出てたし」
シロの話に空気が静まり返る。
俺も紅さんも状況の悪さを理解したからだ。
下手すると明日にでも巨大なゲートが開き、一斉に異世界のモンスターがやってくる可能性がある。
「でもそれは今日明日の話じゃない」
「そうなの?」
「そもそもそこまで大きなゲートを作るのには、技術的に問題がある。少なくとも完成するのに時間がかかる。そこから開くのにさらに時間がかかる」
「つまり……」
「よほど早く作らないかぎりは、年単位で遅れるはずよ」
その言葉が聞けてホッとする。
紅さんも笑顔が戻った。
「なら怯えるより先に対策を取らないとダメね。他の探索者にも協力してもらわないと」
「ってことは……」
「当然、その子の存在を伝えなきゃいけない。少なくとも他の特級冒険者にはね」
「そう、なりますよね……」
ことがことだからしょうがない。
それに関しては俺も理解できる。
だが、みんながみんなシロのことを許容できるかはわからない。
シロは温厚だ。
腹の内で何を考えているのかはわからないが、少なくとも俺とまともに生活はできていた。
ちょっと常識知らずなところはあるが、俺は彼女が気に入っている。
もし他の特級冒険者が彼女を殺そうとしたら……きっと俺は、彼ら彼女らの前に立ちふさがるだろう。
たとえ負けるとしても。
「なに怖い顔してるのよ。あんたが思うようなことにはならないわ。その子には利用価値もあるし、あたしも悪意を感じない。勘が活かしておいたほうがいいって言ってるわ」
「相変わらず勘ですか」
「何よ、文句あるわけ?」
「いいえ。むしろ安心しました。紅さんの勘はよく当たる」
「ふっ。そうでしょ? とりあえずあたしは爺たちに電話をかけて召集を呼びかけるわ。あんたは好きにその子と話でもしてなさい」
そう言ってスマホを片手に紅さんが部屋から出ていった。
残された俺たちは互いに見つめあう。
「私は……イオリの迷惑になっている?」
「急にどうしたの」
「さっき、イオリの顔が急に悪くなった。それも私の話で」
「それがシロのせいになると? 違うさ。あくまで俺が決めたこと。シロの責任じゃない」
殺さなかった、助けた俺の責任だ。それは最後まで取るよ。
「私は構わない」
「え?」
「イオリになら殺されてもいい。ピンチになったなら遠慮しないで私を見捨てて」
「シロ……」
そんな真顔で恐ろしいことを言わないでくれ。
俺は絶対に君を守る。
「馬鹿なこと言うな」
「あうっ」
彼女の額をデコピンする。
にやりと笑ってから言った。
「言っただろ。お前は必ず守る。約束だって」
「それはあの人型モンスターを相手にしてたからで……」
「誰が相手だろうと関係ないさ。お前の命を狙う奴は俺が絶対にぶっ飛ばす。俺の魔力でずっと守ってやるからな」
ポン、とシロの頭に手を置いて撫でる。
この子は意外とナイーブだから、少しでも弱いところを見せると心配させちゃう。
紅さんも俺の味方っぽいし、たぶん大丈夫だろ。
轟さんたちも話してみたかぎり、モンスターへの嫌悪感はそこまで感じなかった。
あとは剣さんと……反応が予想しにくい花之宮さんくらいかな。
轟さんと天上さんは許してくれそうなイメージがある。
というか、天上さんはナンパとかしそうだから注意しないと。
「イオリ」
「なに?」
「私……イオリと出会えてよかった。やっぱりイオリは闇の君主様みたい」
「よく言われるよ。本当に」
一度は見たくなってきたな。
そのよく似てるっていう闇の君主に。
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あとがき。
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