第71話 普通にバレた

 人型モンスターにまたしても逃げられてしまった。


 完全にゲートが閉じる。


「ああああああ! また逃げられたああああああ!」


 どったんばったん!


 紅さんが地団太を踏む。


 魔力を解放してる状態だからそれだけでも周囲の瓦礫が吹き飛んでいく。


 その内のいくつかは俺に当たる。


「紅さん……気持ちはわかりますが暴れないでください」


「どうせこんなんじゃダメージ受けないでしょ! 悔しくないの!?」


「だから気持ちはわかりますって。でも今はそれより先にこの状態をなんとかしないと」


「……ぶ~」


 紅さんは俺が言わんとすることを理解した。


 理解してすぐに魔力を解除する。


 魔力を放出した状態の彼女がいると、存在するだけで周囲の人間が焼かれてしまうため、俺の魔力もまた解除できなかった。


 炎と熱波が消える。


 それから少しして、俺は魔力を解除した。


 周囲を覆っていた闇色のドームがすうぅっと消える。


 燃えるような夕空が見えた。




「お疲れ様でした、紅さん。正直来てくれて助かりましたよ」


「お疲れ様。あたしがいなくてもあの程度の雑魚なら、庵だけでも余裕だったでしょ。前に戦った人型モンスターより弱かったし」


「どうでしょう。あれを見てください」


「ん? あれ?」


 俺が指差したほうへ紅さんが視線を向ける。


 そこには、最初に倒した人型モンスターの死体があった。


「人型モンスターです」


「もう一人いたの?」


「ええ。厳密にはあの老人が最初でした。倒した直後に二人が現れて」


「なるほど。結構魔力は使ってたのね」


「だから助かりましたよ」


 あのまま戦ってても負けはしなかっただろうが、魔力の消費がヤバかった。


 しかし、問題は……シロの存在だ。


 今は魔力を解除してるから彼女の姿を紅さんも捉えている。


 どうやって誤魔化すべきか……。


「そ。役に立ったならいいわ。それよりその子はどうしたの? 外国人?」


「知り合いです。たまたま日本に来ていたところを巻き込まれてしまいましたね」


「ふーん……どういう知り合い? なんとなく気になるんだけど」


「親の知り合いです」


「……身元を確認しても?」


「今は何も持ってませんよ。そんなに気になりますか?」


 内心でドキドキしながらも平静を装う。


 ジッと紅さんがシロを見つめる。


「ええ。なんとなく気になるのよね……なんだか、まるでこの世界の人間じゃないみたい」


「そ、そんなわけ……」


「あと、さっきの人型モンスターが標的うんぬんって言ってたわよね? でもあたしと庵は普通に呼んでたし、見ていたのもその子。庵が守ってたことといい、実に気になるわ。——ねぇ、庵」


「は、はい……」


「その子、一体何者? まさかとは思うけど……異世界の人間とか言わないわよね?」


 ぎくーっ!


 ここにきて紅さんの鋭い勘が冴え渡る。


 ほとんど正体がバレていた。


 あの人型モンスターめ……余計な捨て台詞を吐きやがって……。


 しかし、ここで大事なのは俺の選択だ。


 彼女が死ぬことで異世界人たちに利益があるのは間違いない。


 それを紅さんに教えればシロが殺されるようなことはない。


 ごくりと生唾を呑み込んで彼女にすべてを話すことにした。




「……紅さんの言う通りです。彼女は異世界からゲートを使って現れました。向こうの世界の住民ですね」




 ▼△▼




 紅さんにシロの正体を明かした。


 それから少しして、俺と紅さん、そしてシロの三人が天照のギルドホームにやってくる。


 紅さんの部屋に通され、そこで再び話をすることになった。




「ここなら誰にも話は聞かれないわ。いろいろと教えてくれるんでしょ?」


「はい。まずこの子……自分の名前を覚えていないらしいので俺がシロと名付けました」


「シロ? まさか髪が白いからシロって名前なの?」


「え? おかしいですか? わかりやすくていいと思ったんですが……」


「最悪ね。まあいいけど」


 さ、最悪……? そこまで酷かったかな?


「それで……このシロは、たまたま俺が倒れているところを見つけました。彼女は他の異世界人から命を狙われているらしいです。理由は、恐らく仲間割れでしょうね」


「仲間割れ?」


「これまで聞いていた話を総合すると、彼女は闇の君主と呼ばれる者に仕えていました。しかし、その闇の君主を他の仲間が別の君主に売ったそうです。それで闇の君主が死に、記憶を失う前の彼女がなにかをして追われている、と」


「へぇ……それはまた壮大な話ね。君主って言えば前にも聞いた話だし」


「他にも彼女には、知ってるかぎりの異世界の情報を教えてもらいました。紅さんにも共有しますね」


「お願い。それを隠していた件に関しては、よーく聞かせてもらうから」


 にっこりと彼女は笑う。


 その笑みの裏に高圧的なオーラが滲んでいた。


 俺はひくひくと頬を痙攣させながらも、ゆっくりとシロから聞いた話を彼女に伝える。


 異世界に複数の国があること。君主のひとりの情報などなど。


 シロはそれを黙って聞いていた。




———————————

あとがき。


反面教師の新作、

『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』

現在、総合週間3位!日間総合1位!

週間1位まであと少し!


よかったら応援してください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る