第70話 竜の咆哮

 二人の人型モンスターに襲われた俺。


 しかし、その場に紅さんが駆けつける。


 状況を瞬時に把握した彼女は、やる気まんまんの顔で魔力を練り上げていく。


「気を付けてくださいね、紅さん。この辺りにはまだ人がいます。それと、その人型モンスターは音を操ります。触れられると厄介ですよ」


「周囲の被害は平気よ。庵が守ってくれるでしょ?」


「俺ですか……」


 これだけの規模の建物を封鎖するとなると、大量に魔力を消費するんだが……しょうがないか。


「それと能力の件は了解したわ。触れられる前に燃やせばいいだけ。今回は最初から手加減なしよ」


 紅さんの体が燃えていく。


 魔力が急上昇した。


 熱が一気に周囲を包む。


 慌てて俺が、魔力をドーム状に展開する。


 二人の人型モンスターも閉じ込めた。




「姉さん、あの女そこそこ強いよ。馬鹿みたいな魔力放出量だ」


「というより……魔力の総量が増えているように見えるわね」


「魔力の総量が!?」


「加えてこの炎……姿……なるほど。あの女、精霊化できるのね。中途半端でしょうけど」


「あら、あたしの能力に関して詳しいじゃない。いろいろと教えてくれない? そしたら半殺しで許してあげるわよ?」


「冗談を。あんたはここで殺す。いくわよ!」


「了解、姉さん!」


 二人の人型モンスターが地面を蹴って紅さんに接近する。


 俺は魔力の放出に集中してるから戦力外だと判断したのだろう。


 半分当たっている。


 今の彼女に力を貸そうとしても、サポート以外は逆に邪魔になるだろう。


 それに、シロを魔力で包んでいるから制御能力的に限界がある。


 ひとまず今は紅さんに戦いを任せた。


「鼓膜を破ってあげる!」


「体内から破裂しろ!」


 二人の人型モンスターが紅さんを挟んで能力を発動。


 音波による遠距離攻撃が放たれる。


 しかし、


「甘い甘い! ——竜の咆哮ドラゴンブレス!」


 紅さんは全方位に向けて炎を噴射した。


 俺は鎧をまとっているためダメージは受けないが、視界が赤色で染まる。


「なっ!?」


「攻撃の範囲が広すぎる!」


 人型モンスターはなんとか攻撃を防御するものの、押し寄せる熱に焼かれてダメージを受けていた。


 紅さんの攻撃は、正しい対処をしないかぎり二重でダメージがやってくる。


 かなり凶悪な技だ。そのくせ攻撃の範囲まで恐ろしく広い。


 俺が周囲の空間を魔力で包んでいなければ、建物の周辺にある建物や人間が焼かれていただろう。


 まさに地獄の業火。


「——動きが鈍ってるわよ?」


 防御に集中していた人型モンスターの背後を取る。


 紅さんが弟の背中を全力で殴りつけた。


 炎に包まれる人型モンスター。


 さらに衝撃を殺せず吹っ飛ぶ。


 地面をバウンドしながら俺の魔力に触れた。


 幸いにも、俺の展開する魔力にダメージを与える効果はない。


 ひたすら強靭な壁をイメージして作った。衝撃を無効化する能力しか宿っていない。


 そうでなきゃ、下手すると紅さんまでダメージを受けるからな。


 地面に落下した弟が、皮膚を焼かれた状態で立ち上がる。


「ぐ、うぅ……! クソッ! 痛い……なんだこの痛みは!?」


「大丈夫!? よくも私の弟に……!」


 駆けつけた姉が人型モンスターを治療する。


 音だけじゃない、姉のほうは治癒系の能力まで持っているのか。


「なに睨んでるのよ。そもそも戦いを吹っかけてきたのはそっちでしょ? 自分たちから殴りかかっておいて、反撃されたら逆ギレ? 嫌になるわぁ。これだから異世界人は」


 さらに紅さんの魔力が上昇した。


 炎が肉体を包み、仮初の体が構成される。


 前に見た巨人モードだ。


 あのときほど大きくはないが、すでに二メートルを超えている。


「ッ! 何なの……まだ魔力が増えている!?」


「ダメだ、姉さん! あの女は僕たちと相性が悪い! ここは一旦引くべきだよ!」


「なに言ってるの! すでに一人やられてるのよ!? しかも標的が目の前にいるっていうのに……」


「あの黒い騎士もいる。戦況は不利なんだ。もっと準備をしてから攻めないと!」


「…………そうね」


「逃がすわけないでしょ!!」


 紅さんが人型モンスターに迫る。


 回復途中の弟は、姉を突き飛ばして攻撃した。


 手のひらから大量の魔力が音となって放出される。


 しかし、それを受けた状態で紅さんは拳を振るった。


「はあああああ!」


 拳が弟を再び捉える。


 凄まじい衝撃を受けて、弟は壁に激突した。


 本来、衝撃を吸収するはずの壁が許容量を超えようとしている。


 背中にはダメージはないだろう。だが、紅さんに殴られた腹部は酷い火傷を負っていた。皮膚を貫通して腹に穴があく。


「その手を離せええええ!!」


 姉が即座に能力を発動。


 音波による攻撃で紅さんを吹き飛ばす。


「ね、姉さん……ゲートを……!」


「わかってるわ」


 弟を抱きかかえた姉が、背後にゲートを開く。


 あれがシロの言ってたゲートを開く方法ってやつか。最初に倒した人型モンスターもそうだったが、人型モンスターなら大半がゲートを使えそうだな。


 そして、このままだと逃げられる。


 俺も魔剣グラムを槍に変化させて投擲した。


 しかし、それをあえて腕で受けることで姉は軌道を逸らす。


 グラムに削られながらも、急いで二人はゲートの中へと消えた——。




———————————

あとがき。


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