第69話 黒騎士、シロを守る
人型モンスターを倒した矢先に、新たな人型モンスターが現れる。
しかも相手は二人。
好戦的な笑みを浮かべて、男のほうが俺の眼前に迫った。
腰に下げている鞘からナイフを引き抜き、それを恐ろしい速度で振るう。
シロごと体を下げて攻撃を回避した。
「ッ! 邪魔だ!」
足に力を入れる。
左手を握り締め、最速で反撃を行った。
しかし、その拳を男が受け止めてガードする。
衝撃によりやや後ろに吹き飛ぶが、ダメージはなかった。
「ふんふん……なるほどね。今の反応速度といい、膂力といい、やっぱり強いよ、コイツ」
「ならいつもみたいに二人で殺しましょう。私たちは最強よ」
「そうだね、姉さん」
姉と弟、両方から魔力の反応を感知した。
その瞬間、俺も魔力を発動する。
「————深淵の帳」
黒騎士モードへ移行した。
それを見て、人型モンスターたちは驚愕する。
「今の魔力……それにこの気配……闇の君主?」
「いいえ、似てるけど違うわ。あの化け物が相手だったら、今ごろ私たちは殺されてる。ただ似てるだけよ。心配いらないわ」
「了解! じゃあいこうか!」
人型モンスターが同時に地面を蹴る。
二人で俺とシロを挟んでいた。
咄嗟にシロを後ろに突き飛ばし、同時に、彼女に魔力をまとわせる。
これで防御完了。あとはコイツらを蹴散らして終わりだ。
「そらそら! 僕にそんな鎧は通用しないよ! ————不浄共鳴!」
「盛大に響きなさい。————崩壊音波!」
同時に人型モンスターたちが俺の鎧にナイフを当てる。
すると、ナイフから凄まじい振動が伝わってきた。
——これは……音か!
何倍にも増幅された音波が俺の鎧を揺らす。
生身の状態で受けていたら、恐らく体が内側から吹き飛んでいたかもしれない。
それほどの魔力量を感じた。
幸いにも、二人の攻撃は俺の防御魔法を貫くほど強力ではない。
鎧の魔力が攻撃を吸収し終え、深淵の帳のカウンターが発動する。
二人が攻撃を加えた箇所から、大量の闇が溢れて人型モンスターを襲った。
「なっ!?」
「離脱!」
素早く姉のほうは地面を蹴って後ろに下がった。
反対に弟のほうは反応が遅れる。
わずかに闇の魔力が体に付着した。
「くっ! なんなんだこれ!」
慌てて後ろに下がるがもう遅い。
俺の弱体化魔法が作用する。
効果は、身体能力の低下に魔力の制限。
一瞬だったからこんなものか。効果もさほど高くない。
「姉さん、体が少しだけ重くなった。この魔力、間違いなく弱体化だよ!」
「厄介ね……防御能力も馬鹿みたいに高いし、これを突破するとなると……」
「もっと魔力が必要だね。僕に任せて」
そう言うと、弟の魔力の放出量が増加する。
しかし、直後、一定ラインで止まった。
「……え? どうして魔力が……!?」
「さっき自分で言ってただろ。弱体化を受けたって。体が重くなるだけだと思ったのか?」
「お前ッ!」
ギリリ、と弟のほうが奥歯を噛み締める。
悔しそうだ。
「魔力の制限? そんな弱体化まで使えるのね、あなた。本当に厄介……」
ちらりと姉のほうが黒い鎧をまとったシロを見る。
残念ながら彼女に与えた魔法もまた、今の俺と同じ防御能力を持っている。
効果の性質上、鎧をまとっている間は魔法が使えないが、シロはそもそも魔法が使えないからデメリットにはならない。
「しょうがない、一旦ここは退いて——」
「逃がすと思ったか?」
闇の魔力をさらに放出する。
周りが俺の魔力で覆われていく。
「お前らはここで殺すか捕まえる。諦めろ」
「チッ!」
姉のほうが地面を蹴ってこちらに肉薄する。
俺を一時的に無力化して逃げるつもりかな?
判断は悪くないが、そう簡単に負けてやるつもりはない。
刃渡りを短くした魔剣グラムを構える。
後ろからも弟が迫っていた。
——同時に斬れるか?
思考は一瞬、すぐに行動に移す。
——が。
俺が動くより先に、空から炎の塊が降ってきた。
俺のそばに着弾、激しい爆発を起こす。
「きゃああああ!」
「ぐあああああ!」
人型モンスターが二人揃って吹き飛ぶ。
俺も足に力を入れておかないと吹っ飛ばされそうになった。
爆発はすぐに止む。
辺りをさらにめちゃくちゃにしておいて、煙から姿を現したのは——、
「セーフ。間に合ったわね、庵。ナイス足止め」
ドヤ顔の紅神楽だった。
「紅さん……いま、俺ごと攻撃しましたよね?」
「鎧着てるから平気でしょ? ナイスガード」
「一歩間違えたら普通に危険なんでやめてください。ひやっとしましたよ」
「まあまあ。それよりなんだか面白い状況ね。まさか人型モンスターが二体もいるなんて……庵、引き強すぎない?」
立ち上がった二人の人型モンスターを見て、紅さんは獰猛な笑みを浮かべた。
どんどん魔力の放出量が上がっていく。
やる気まんまんだ。
———————————
あとがき。
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『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』
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