第67話 ぶつかる黒魔法

「……シロ、無事か?」


 人型モンスターが操る重力の影響で建物ごと生き埋めにされた俺たち。


 深淵の帳を使っていたおかげで俺とシロに目立った外傷はない。


 落下時のダメージも鎧がすべて吸収してくれた。


「ん……平気。でも、ごめんなさい。私、何の役にも立たない……」


 起き上がったシロが俯きながら謝る。


 その頭を優しく撫でた。


「気にするな。俺が守ると約束した以上は絶対にお前を守る」


「イオリ……」


「——ふんっ。ずいぶんと余裕じゃないか、異世界の人間。あれだけの攻撃を受けても無傷なのは褒めてやるが、お前と私では力の差が歴然だろう? もう諦めたらどうだ? まだ命は助けてやれるが」


「断る。何度言われても、シロは絶対にお前には渡さない。それに……勝負はここからだろ」


 俺は立ち上がって魔力の放出量を上げた。


 こちとら全然本気じゃない。


 周りに配慮して手加減していたのだ。


 なまじ俺の力は、周囲をめちゃくちゃにしかねないからな。


 右手にひと振りの剣を生成する。


「————魔剣グラム」


 万物を吸収・崩壊させる最強の武器を構えた。


 それを見て老人が目を見開く。


「そ、その剣は……闇の君主の武器によく似ている!? 何なのだ、本当に貴様は!」


「はぁ? それはこっちが聞きたいくらいなんだが。まるでその君主の二番煎じみたいじゃん。やめてくれよ」


 俺は明墨庵だ。


 その闇の君主とは何の関係もない。




 剣を握り締めて地面を蹴る。


 今度はこちらから攻撃を仕掛けた。


 刃を振るう。


「チィッ! 触れただけで防御を貫通してくる攻撃か! 厄介だな」


 老人は俺の魔剣グラムをやや大げさに回避した。


 どうやらこの攻撃はよく効くらしい。


 あえて剣身を短くすることで取り回しやすくした。


 そのまま接近しながら何度も剣を振る。


「邪魔だ! 私に近付くな!」


 人型モンスターもただ攻撃を避けているだけじゃない。


 距離があいた途端に重力の塊をぶつけてくる。


 しかし、その球体を俺の魔剣グラムが切り裂いた。


 一瞬だけ周囲に数倍もの加重が放たれるが、魔力放出量を上げた俺の鎧がそれを弾く。


 さらに接近して男の片腕を斬り飛ばした。


「ぐああああああ!」


 あっさりと人型モンスターの腕を斬り裂く。


 防御能力は俺よりはるかに低い。恐らくだが、この男は重力という一点に突き抜けたタイプなんだろう。


 本来は格下に対して圧倒的な能力を誇るが、防御能力の高い俺とは相性が悪い。


 閻魔殿で戦ったあのモンスターよりは楽に倒せそうだ。


「どうした? 動きが鈍いな」


「黙れ! もう許さん……すべてを破壊し尽くしてやる!!」


 ズズズズ。


 周囲に不自然なほど加重が加わっていく。


 地面が割れ、積み重なった瓦礫が潰された。


「これは……!」


「くくく! わかったか? わかったところでもう遅い。この辺り一帯をまとめて平らにしてくれるわっ。お前らは生き残るだろうが、他の人間はどうかな?」


 どんどん魔力放出量が上がっていく。


 まずいな……これだけ魔力が跳ね上がるってことは、下手すると人型モンスターを基点に一キロほどの範囲が更地と化す。


 俺とシロは帳の効果で問題ないが、他の一般人たちが巻き込まれてしまう。


 慌てて魔剣グラムの出力を増加させる。


 同時に、闇の魔力で周囲を覆う。


 これにより、人型モンスターの魔法を中和して威力を弱める。


「ぐっ! どこまでも不快な真似を……!」


「それはこっちの台詞だ! 他の連中まで巻き込むなんて許せるものか!」


 互いに黒魔法がぶつかり合う。


 重力と崩壊。


 勝ったのは——俺のほうだった。


 やはり老人と俺の魔力の相性は最高だ。


 効果を分散する以上、俺の魔力からは重力だろうと逃げられない。


 相手の魔力を吸収して、徐々にその魔法の効果を弱めていく。


 そこへ、俺の魔剣グラムが迫る。


 当然、人型モンスターは俺の攻撃を避けるが、一度避けたあとで動きがぴたりと止まった。


「なっ!? こ、この重さは……まさか!?」


「ああ。俺もお前と同じ重力の操作くらいなら使えるよ。自分のお気に入りの魔法で殺されろ」


 目には目を。歯には歯を。


 相手の重力魔法を真似て人型モンスターの機動力を奪う。


 その隙に、俺の魔剣グラムがモンスターの体を真っ二つに斬り裂いた。


 上半身と下半身が分かたれる。


 人型モンスターの魔法がふっと消えた。


 体が地面に落下し、夥しいほどの鮮血を流す。




「ふう……これでなんとか終わりか」


「く、くそがああああ! 私が、異世界の猿ごときにいいいい!」


 倒れた老人は、体が半分しかないのに元気だった。


 さすがモンスター。


 さっさとトドメを刺そう。


 そう思って男に近付くと、そこへシロもやってくる。


 シロが何か喋りたいのかと思った俺は、剣を構えた状態で止まった。


 いつでも殺せるように気を張り巡らせて彼女の反応を待つ。




———————————

あとがき。


新作

『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』


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