第66話 黒騎士、断る
シロと一緒に上層に上がる。
三階より上は、やはりモンスターの数が多かった。
どれも人間を見つけるなり襲っている。
そこへ俺が割り込む。
武器を振り上げたモンスターを闇の魔力で撃退した。
「——っと。これで何匹目かな」
数えるのやめるくらい敵を倒した。
顔面を粉砕されたモンスターが倒れ、負傷した一般人を診る。
「……うん、これくらいなら平気ですね。少し治療しておきますので、すぐにこの建物から離れてください。下に行けばここより安全なはずです」
「あ、ありがとうございます……」
俺の下手くそ——でもないけどね? ちょっとだけ自信がない——こともないけどね? まあ少しだけ他の人より劣る白魔法を受けた女性が、お礼を言って階段を下りていった。
これで十人くらいは助けた。
中には、現れたモンスターに殺された人もいる。その人は助けられない。
だが、俺にできることは精一杯やった。責任に潰されることはない。
「イオリ……あれ」
「ん? ……ああ」
シロが指で正面の奥を示す。
そこには動かぬ死体があった。
これで五人目だ。
基本的にモンスターに殺された人は、食べられるかグチャグチャにされる。
シロが見つけた人は後者だった。
まるで激しい怒りをぶつけられたかのように、無残な状態に成り果てている。
内心で両手を合わせて冥福を祈った。
そして、この異常事態の元であるゲートの前にやってくる。
どうやらゲートが開いたのは、屋上のひとつ下、六階フロアの中だった。
それまでの階とは異なり、六階にいた人は全員が殺されている。
「惨いことをするな……奴らには捕虜っていう概念がないのか?」
「私たちの世界にもそれくらいはある。けど、異世界の人間には適用されない」
「どうして?」
「殺して全てを奪ったほうが早い。世界そのものを狙っているから、そこに住んでいる人はどうせ邪魔になる。だから殺すの」
「なるほど」
シンプルな答えだ。
胸糞悪くなる。
「なら俺たちも手加減する必要はないね。他の探索者の人が来たら、さっさとゲートを攻略して——」
「イオリ!」
話の途中、シロが叫ぶ。
その声には強い警戒心が込められていた。
ゲートから何者かが姿を現す。
ゆっくりと別次元の膜を超えてきた。
黒いローブを羽織った……老人?
「——よもやよもや。お前のほうからこちらに来てくれるとはな……会いたかったぞ、裏切り者」
「……裏切り者?」
老人がそう言ったのは、シロのことだ。視線が真っ直ぐに彼女へ伸びている。
「そこの異世界の人間。貴様に猶予をやろう。その娘を大人しく私に差し出すなら、その命は見逃してやる」
「勝手にゲートを開いておいてよく言うな、おい」
そんな提案呑めるわけがない。
俺はきっぱりと拒否を示す。
「断る。この子は俺の仲間なんでね。悪いが、仲間に手を出す奴は——倒すぞ」
足元から漆黒の魔力があふれ出す。
——深淵の帳。
黒騎士モードと呼ばれる状態になった。
目の前の老人は、恐らく前に戦った人型モンスターと同じタイプだ。
それ即ち、通常のモンスターより強いことを示している。
「やれやれ……臨戦態勢とはな。お互いの力の差を知らない若者はこれだから……」
「おじいちゃんはさっさと自宅に帰ったほうがいいよ。若者に泣かされることになる」
「ほざけ!」
老人の体内から魔力があふれ出す。
驚くことに、俺と同じ闇色の魔力だった。
「その魔力……俺と同じか」
「ふぉっふぉっふぉっ。果たして同じかな? 見た目で判断すると痛い目に遭うぞ?」
老人の魔力が集束していく。
なんだか嫌な予感がした。
咄嗟に闇の魔力で盾を作ると、老人が巨大な球体をこちらにぶつけてくる。
それをガードした。
「——ッ!」
凄まじい衝撃が発生した。
球体が俺の生成した魔力に触れた途端、なぜか周囲が一気に重くなる。
この現象の正体は……!
「じゅ、重力……か」
あの人型モンスター、黒魔法の中でも弱体化に分類される重力使いだ。
それも割と離れているのに効果範囲に巻き込まれた。威力はともかく、効果範囲は馬鹿みたいに広い。
「ご名答。そういう貴様は……忌々しいことに闇の君主と似た性質を持っているようだな。私の魔力がどんどん吸収されている」
「貪欲なもので」
深淵の帳をまとっている状態でも重さを感じるほどの魔力。
重力の塊であるあの球体は防御できているが、周辺に放たれた余波までは防ぎきれない。
恐らく、深淵の帳がなかったらヤバかったな。
みしみしと床が悲鳴をあげる。
俺は問題ないが、建物のほうが先に崩壊を始めた。
天井も壁もすべてを巻き込んで壊れる。足場がなくなってシロと共に下へ落ちた。
「シロ!」
あわてて彼女を抱きしめる。
闇の魔力でお互いを包むと、重力に従って建物の真下に消えていった——。
———————————
あとがき。
新作
『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』
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