第65話 黒騎士、ピンチになる

「……シロさんや」


 デパートの中を歩きながら俺は深いため息を吐く。


「なに? どうかしたの?」


 隣に並ぶシロは、俺の内心など知らぬ風に首を傾げた。


「いやさ……お金を渡したのになんで下着を持ってくるの?」


「何を買ったのかイオリに見せないと不公平。私がイオリを騙す可能性もある」


「たしかにそうだけど……」


 彼女には、予め十分なお金を渡しておいた。


 それで下着を買っておいで、と言ったんだ。


 ただの服なら問題ない。俺が店員さんに話を聞きながら選んだ。


 しかし、それが下着となると話は異なる。


 いくらなんでも女性の下着まで俺が買ったら、周りの視線がすごいことになる。


 というか、実際すごい見られていた。


 無理もない。


 マスクに帽子をした不審者が、女の子の下着を購入したのだ。


 それを嬉々として見せてくるシロもシロだが、見せられる側の苦労くらいは知ってもらいたかった。


「でもね? こっちの世界だと下着を男性に見せるのはまずいことなんだ」


「私がいた世界でもそうだった」


「確信犯!?」


 まさかの確信犯である。


「でもイオリは恩人だから、あんまり隠し事とかはしたくない」


「シロ……いい人風に言うのはいいけど、今後はしっかりしよう。俺と君は同じ家に住んでる状態なんだから」


「もしかしてイオリ……私で興奮するの?」


「ぶふっ」


 シロの最強発言に吹き出した。


 こんな往来の場所でなんてことを言うんだこの子は。


 きょろきょろと周りを見渡すが、幸いにも近くには誰もいなかった。


 ホッと胸を撫でおろす。


「そういうことじゃないから! いやたしかにしないかと言われたらそれはそれで問題あるけど……」


「つまりすると」


「シロは話が極端すぎるよ……」


 ある種の肯定で返す。


 実際、彼女は魅力のある人物だ。


 そんな美少女の裸や下着を見て、興奮しないかと言われれば嘘になる。


「別に私は構わない。イオリのことは最初から信用してるし、不思議と好きになれる。やっぱり魔王様に雰囲気が似てるから?」


「その魔王様とは恋仲だったの?」


「ううん。家族みたいな関係だった」


「つまり親ってことね」


 それは別に親愛って感情で、俺に好意を持つ理由にはならないのでは?


 懐いてもらえるのは嬉しいが、その度合いにもよる。


 俺はなるべく彼女に依存しないよう注意することにした。




「まあいいや。シロの常識は今後ゆっくりと学んでいけばいい。服は買ったし、次は夕食を買いに——」


 ズウウウウン!!


 デパートがわずかに揺れた。


 蛍光灯の明かりが一瞬だけ点滅を繰り返す。


 周りにいた客たちも不思議そうに周囲を見渡した。


「な、なんだ今の。地震にしては……」


 不思議な揺れ方だった。


 割と揺れたように感じたし、地震にしては感覚が短かった。


 どちらかと言うと、このデパートがものすごい力で——。


「きゃあああああ!? も、モンスターよ! モンスターが出たわあああああ!」


「ッ!?」


 思考の途中、遠くで女性の悲鳴が聞こえた。


 荷物はアイテムボックスの中に入れてある。


「シロ! ちょっと走るけどいいかい!?」


「ん、問題ない」


 慌てて俺は床を蹴って走った。


 その後ろからシロが続く。


 悲鳴がしたほうへ向かうと、三階のフロアに人間を襲うモンスターを見つけた。


 人型のモンスターだ。


 しかし、前に紅さんと戦ったような異世界人ではない。


 ダンジョンでも見たことのある——ミノタウロスがそこにいた。


「なんでこんな所にモンスターが……!」


 急いで魔力を練り上げる。


 闇をまとい、シロにも闇をまとわせる。


 その後は床を蹴ってモンスターに肉薄すると、振り上げていた武器を腕ごと斬り裂いて落とした。


 倒れている人、周りにいる人たちに告げる。


「全員、ここから離れてください! たぶん一階のほうへ逃げれば問題ありません!」


 悲鳴が聞こえたのは上からだけだ。


 下からモンスターが上がってきたなら、三階より先に二階の俺たちが襲われているはず。


 それが急に三階に現れたってことは、ゲートが開いたのは上の階!


 的確に指示を出し、そのままミノタウロスの心臓を素手で貫いて殺す。


「ったく。なんで急にモンスターが……」


 ゲートが発生する理由はもう知っている。


 これも異世界人の侵攻なのだろう。


 タイミングが悪い。いや、タイミングがよかったと考えよう。


 俺がちょうどバッティングしたおかげで、負傷者が少なくて済む。


「シロ、悪いけど一緒についてきてくれるかい? 必ず守ると約束する。モンスターたちを殲滅しないと」


「了解。あなたに拾われた命、あなたに預けるのに何の躊躇もないわ」


「サンキュー」


 シロに礼を言って、俺は彼女と共に上の階を目指した。


 俺の予想通り、三階より上からさらに悲鳴が聞こえる。


 まだモンスターはうじゃうじゃいた。




———————————

あとがき。


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