第64話 黒騎士、買い物に出かける

 シロを置いて俺だけひとり学校に向かう。


 アイツは異世界から来た敵のひとりだ。


 まだ仲間かどうかもよくわかっていない。


 だから少しだけ心配になったが、それでどうにかなるわけでもない。


 そわそわしながらも時間は過ぎていき——放課後。


 クラスメイトたちに話しかけられるも、それを断って急いで自宅に帰る。


 覚醒者としてあまり褒められたことではないが、かなりの速度で走った。


 その結果、本来の半分ほどで自宅に到着する。




 ▼




 鍵を外して扉を開ける。


 廊下を通ってリビングに向かうと……。


「すぴー……すぴー……すぴー……」


 シロの奴が気持ちよさそうに眠っていた。


「………ハァ」


 無駄な杞憂に終わってよかったのやら、自分の懐の狭さに悲しめばいいのやら。


 複雑な気持ちを抱きながら、鞄を近くのソファに放り投げる。


 こんなところで寝ていた風邪を引くぞ、と思いながら彼女を抱き上げる。そこでぱたりと彼女の寝息が止んだ。


 ぱちっ。


 目を覚ます。


「……イオリ?」


「あ、悪い。起こしたか」


「ううん。最初からただの仮眠。イオリが帰るの待ってた」


「起きて早々、買い物に行きたいのか?」


「行く。この世界に興味がある!」


「お前が言うとちょっと不穏だぞ……」


「ただの好奇心。そこに意味はない」


「わかってるよ。なら支度……は必要ないか。それしか服ないし」


 彼女が着ていた服はすでにボロボロだった。


 あれを着せるくらいなら、男物の服を着て外を歩くほうがマシだ。


 男物と言っても、シャツとジーパンくらいはまあ女も着るしな。


 そこまで違和感はない。


「楽しみ。イオリはどこに私を連れていってくれる?」


「そうだな……まずは——」


 あそこが鉄板だろう。




 ▼




 シロと共に家を出た。


 真っ直ぐ彼女と共に向かったのは、最寄り駅にある巨大デパートだ。


「はい、やってまいりました。駅のそばにある巨大デパート~」


 某猫型ロボットみたいな口調で俺は告げる。


 シロの瞳がキラキラと光っていた。


「すごく大きな建物! 軍事基地?」


「違うよ。そんなものこんな往来にはない」


 どんな国だよ。


「そうなの? もしかしてこの世界はかなり平和だった?」


「平和だね。国同士が争ったりもするけど、少なくとも日本はかなり平和だよ」


 世界的に見ても平和と言われている。


「そうなんだ……それなのに、私たちはこの世界を……」


「まあ、それはお前が言ったところでしょうがないだろ。わかるよ。上が勝手に望んだ結果だろ」


「違う。まだ闇の君主が生きていた頃、基本的に誰もが異世界への侵攻に賛成していた。それは私も同じ」


「……マジで?」


「うん。それだけ向こうの世界は荒れていたとさえ言える」


「なるほど」


 そういう理由があって、無理やりにでも侵攻せざるを得なかったと。


 納得できる理由だった。


 しかし、認めることができるかどうかはまた別だ。


 俺たちには俺たちの暮らしがある。それを奪う権利は誰にもない。


「ごめんなさい」


「いいよ。今のお前は悪者でもないし、こうして初めてこっちの世界に来たんだろ?」


「うん。私たちは内戦に巻き込まれていたから、先発の部隊とは別だった」


「ならセーフだ。許される。たぶん」


「ちょっと適当。でも、ありがとう」


 シロは嬉しそうに口元を緩めた。


 結構かわいいところもあるな。


「……けど、ひとつだけ疑問がある」


「疑問?」


「なんでイオリは顔を隠してるの? 変」


「ぐっさりと刺してきたなおい。別にカッコいいと思ってしてるわけじゃないよ」


 俺は家に置いてあったマスクをして帽子も被っていた。


 ほとんど素顔を隠している状態を見て、シロは首を傾げる。


「自分で言うのも恥ずかしいけど、俺って結構有名だからさ」


「有名?」


「そっ。だから顔を隠さないと周りの連中に囲まれるんだ。シロだってそんな目に遭うのは嫌だろ?」


「むぅ……たしかにその通り。納得した。イオリは超強いから有名。覚えておく」


「その覚えられ方はちょっと嫌だな……まあいいや。それよりデパートの二階に服とか売ってるからそこ行くぞ」


「了解」


 俺たちは共に並んでデパートの中に入っていった。


 あまりにも異世界と違うのか、平凡なデパートの中を見てシロは圧倒される。


 まるで何も知らない子供を連れてきているかのような気分になった。


 実際、彼女の視線はあっちこっちを彷徨い、かなり忙しそうにしている。


 ほかの人たちにぶつからないよう手を繋ぐと、ぐいぐいしょっちゅう引っ張られて説明を求められた。


 まるで犬だな……うん、俺の名付けに間違いなし。


 そんなこんなで彼女と共に二階へ向かい、そこで恥ずかしくなりながらも女物の衣服などを購入していく。





———————————

あとがき。


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